もう一つ、クラウド普及に対するマイナス要因として、セキュリティやネットワークへの懸念が挙げられる。データの外部配置に抵抗感を抱く企業は少なくない。しかし、「現金を家庭用金庫にしまっておくのと、銀行に預けるのとでは、どちらが安心か」(海野氏)ということと同じであり、実際にはクラウドの方が安全であるとする。
それでは、安全を確保するためにキャリアはどのような工夫をしているのか。NTTコミュニケーションズでは仮想化技術を駆使し、技術と地理の両面で策を講じているという。地理的対策では、国内広域分散が可能になる。同社のVPNサービスでは、サーバに障害が発生すればデータセンター内の別のサーバが業務を引き継ぐ。また、センターのある地域全体に災害が起きたような場合でも、たとえば東日本のデータセンターでの緊急時には、西日本のデータセンターに業務を分散させることで、データの安全性を確保できるのだという。
このような広域分散は、グローバルでも可能だ。同社は、日本、米国、欧州、香港、シンガポールの、世界5極のデータセンターを高速バックボーンで接続し、各地域をまたいだ広域分散による災害復旧も実現する予定だとしている。
ネットワークの影響力はますます増大している。だからこそ、社会的責任も重くなる。海野氏は、ネット通販の市場規模が遂にコンビニやデパートを追い抜いたという報道を紹介して「ICTは順風満帆にみえる」とした一方、多数の会員を獲得していたコミュニティサイトが問題を抱え、サービスを停止した事例を挙げた。海野氏は「これも一つのクラウドだが、クラウドは信頼性の高い、責任あるサービスプロバイダを選ぶべき」とした。
最後に海野氏は「たとえば、電子商取引事業者は、サーバを調達してサイトを構築し、ソフトを開発したりネットワークを整備したりというような仕事をしなければならなかったが、これらをクラウドに移行すれば、良い商品を見つけ、販売するという本来の仕事に専念することができる」と強調。「これまでのICTは、従来でもできたことの効率化に使用されることが多かったが、今後はICTで初めてできるようなことにチャレンジしては」と述べた。