複雑適応系に関して科学的に確認されている特性の1つは、ささいなことが重大な結果を引き起こす場合があるということだ。例えば、テーブルの上に砂山があるとしよう。砂山に砂を1粒ずつ落としていくと、砂山の形が徐々に変わっていくのではなく、比較的平静な状態がしばらく続いた後で、大きな地滑りが起きる。結局のところ、多くの砂粒を床まで押し流す地滑りを引き起こすのは、1粒の砂なのだ。
一部の人は、「フラッシュクラッシュ」では正にこうしたことが起きたと考えている。予測外の大規模な取引が1件発生したことで、いくつかの自動システムが株の売却を開始してしまったようだ。主要な取引所で特定の株式の取引を停止して、株価の下落を食い止めようとする試みは、新しい電子取引所で売りが続いたために頓挫したが、その試みによって、HTFシステムをさらに混乱させてしまった可能性は高い。
その結果、ダウ工業株30種平均は30分足らずで約800ポイント下げた。
複雑適応系としてのクラウドコンピューティングの将来
では、この出来事はクラウドコンピューティングとどのような関係があるのだろうか。実際のところ、現時点ではあまり関係がない。クラウドコンピューティングの自動化の大半は、管理された形で行われる。管理下のシステムが、アプリケーションのニーズと利用可能なリソースのマッチングを決めるアルゴリズムのセットの1つに「属している」という形だ。現在のパブリッククラウドでもリソースを巡る一定の競合は存在する(Amazonが変動価格オプションを提供していることはこれを証明している)が、実際のところは、クラウドシステムの量も相互接続性も、真の複雑適応系の挙動を生み出すほどの規模には達していない。
しかし、将来的にはどうだろうか。クラウドシステムが今よりもはるかに相互接続された状態で稼働する世界を想像してほしい。1つのアプリケーションのニーズを制御する自動化システムや、複雑な分散型アプリケーションシステムのごく一部分までもが、世界中のリソースを巡ってほかのすべてのアプリケーションと競合しなければならないような世界だ。その競争に、クラウドプロバイダー自身が運用するさまざまなサービス自動化環境が加わる。そして、その1つ1つが、それぞれサービスを構成するリソースの利益のために決定を下す。
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