永野氏は、4人の中でもとりわけ元気が良く、「優勝」の言葉を何度も口にしている一見お調子者とも思える学生だ。しかし市川氏に言わせると、「永野は優等生」なのだという。市川氏は、永野氏をピカソに例え、「ピカソの若い頃のデッサンはきめ細やかで写実的。それが天才と呼ばれるようになったのは、そのスタイルを壊したからだ。永野もピカソと同じで、できあがった自分を壊すことに成功した」と話す。天才に近づいたとも言える永野氏は、「優勝すると言ってできなかったが、今年優勝すると言ったわけではない。有言実行あるのみ」と強気な発言を続けているが、市川氏も「彼なら本当にやるかもしれない。ふざけているように見えて自分をコントロールしている。敵にしたくはない人間の1人だ」と、永野氏の可能性に恐れをなしているほどだ。
そして、今回リーダーとしてチームを支えた石村氏だが、市川氏によると「実は国内大会までは、私がリーダーの代役を務めていたと言っていい。彼はリーダーとしての素質はあったのだが、ノウハウがなかった」という。「しかしそのノウハウは彼の頭脳からすればたいしたことではない。彼が乗り越えられなかったのは、チームメンバーを自分がカバーするという包容力。それが少しずつできあがってきて、今ではリーダー性を発揮している。ほかのチームメンバーも石村のことを名実共にリーダーと認めている」(市川氏)
こうして「予測もできないチームができあがった」と市川氏は言う。きっと誰が見ても、このチームが普通の高校生でないことは明らかだ。それは、Imagine Cupに参加する以前からエリート高校生だった彼らの成長の伸びしろが大きかったこともある。半年でこれまで以上に成長した彼らは、ある意味最強の高校生と言えるだろう。
リーダーの石村氏は、日本からポーランドにやって来た全関係者の前で「一言」を求められた際、「少し長くなります」と前置きした上で、市川氏やPAKENのメンバーはもちろんのこと、報道陣からマイクロソフト関係者、組み込み開発部門に参戦していた別チームのCLFSにまで、全員に対する感謝の気持ち述べた。
「ここにいるすべての人にお礼を言わせてください。まずメディアのみなさんには、大会をレポートして盛り上げるだけでなく、励ましやアドバイスまでいただきました。そしてマイクロソフトのみなさん、このような大会に参加する機会を与えていただき、また研修などのサポートも行っていただきありがとうございます。CLFSのみなさん、全く別のチームなのにまるで一緒に戦う仲間のようにアドバイスをいただいてありがとうございました。そして市川先生、むりやりメンターとして登録し、巻き込んだにもかかわらず、数多くのアドバイスやサポートをいただき本当に感謝しています。そしてPAKENのメンバーのみんな、毎日夜遅くまでプロジェクトの完成に向けてがんばってくれて本当にありがとう」
石村氏の「一言」は、数分間にわたって続いた。その間、市川氏は再び目頭を押さえていた。
市川氏は言う。「世界大会での結果は残せなかったが、一般の学校教育では決して得られないすばらしいものを得た。世界を相手にここまでがんばることができる若者が日本にもいるということを、彼らは教えてくれた。彼らは私たちの未来そのものだ」