一方、フォークリフトを扱う中国大連工場では、Infor ERP LXの導入にあたり、基本システムに業務プロセスを合わせる方針で導入を進めた。大連工場は、新興国市場へのフォークリフト販売、オランダや米国へのコンポーネントの供給基地、また為替変動に伴う日本への製品輸出などの機能を果たしている。
大連工場における導入の基本方針は「カスタマイズなし」「汎特事業本部(日本)のBOM(部品構成表)とのデータ連係」「中国国内法と商習慣への準拠」「“コンフィグレータ”の実現」といったものだったという。ここでいう「コンフィグレータ」とは、顧客がネットワークを通じて、部品構成を独自にカスタマイズして発注できる機能のことを指している。
生産管理のコンセプトとしては、「汎特事業本部のフォークリフト生産管理を手本にする」「状況の見える化を行う」「短工期に対応する(4日前までにオンラインで確定)」「在庫精度の向上」といったポイントを重視した。また、「その他の海外拠点でのベストプラクティスを活用する」ことも意識したという。
こうした方針と取り組みも、約9カ月という短期間でのカットオーバーを実現したひとつの要因と言えよう。もちろん、まったく苦労がなかったわけでない。渡部氏は「パッケージ利用にあたっては、業務にかかわるあらゆることをパラメータ化して入れていく必要があり、そのための作業に苦労した。関係部門との調整などを含め、大量に行わなければならない“決めごと”の段取りが難しかった」と語る。
必要な時に必要なデータを迅速に取得
岸谷氏は「プロジェクトの途中では、何度も心が折れそうになった」と語るが、そうした苦労を乗り越え実際に稼働を開始した両工場のInfor ERP LXは、すでにいくつかのメリットを生んでいる。そのひとつは、導入目的のひとつでもあった「データの一元化」による精度とスピードの向上だ。
「必要なデータが必要なときにすぐに出てくるという点に、現在は一番メリットを感じている。従来では、必要なデータを出すにあたり、複数のシステムから、必要と思われるものを探し出す必要があり、かなりの熟練者でなければ難しかった。また、精度も問題になることがあった。ERPの導入によって、データがすべて整理され、だれが作業しても早く、正しいデータが出てくるようになっている。例えば、日々の製販在のフォローアップ資料などについては、従来2カ月かかっていたものが数日レベルにまで短縮された」(岸谷氏)という。
また、パッケージならではのポイントとしてトレーニングコストの削減も挙げられるという。汎特事業本部で旧来利用しているホストベースのシステムは、度重なる機能拡張などで構造が複雑化しており、利用マニュアルは存在するものの、使いこなせるようになるための敷居が極めて高かったという。一方で、Infor ERP LXでは、ベンダーがトレーニングコースを用意しており、このことも本稼働開始までの期間短縮と教育コストの削減に寄与したという。
今後両工場では、ERPに反映された業務プロセスをベースに、さらなる業務効率の向上や意思決定の迅速化を目指して、他社との差別化を図っていく。また、タイ工場では、より広範なサプライチェーンへの対応を計画しているほか、大連工場では、フォークリフトにかかわる各拠点での密な情報連携や、さらに新たな拠点を作るときのシェアードシステムとして今回導入したシステムを活用していくことなどを計画しているという。