「未来の数字」の信頼性を高めるためにできること--不確実性分析というアプローチ - (page 2)

梅田正隆(ロビンソン)

2010-08-04 16:31

事業計画の数字に「納得性」はあるか

 小川氏の会社ではBI事業を展開しており、その顧客の約半数は製薬会社なのだそうだ。新薬開発という極めて「ハイリスクハイリターン」なビジネスの事業性計画および意思決定を、システムの提供やコンサルティングを通じて支援しているという。

 ユニークなのは、同社のBIが基本的に「過去のデータ」を用いずに、意思決定と今後の行動計画を支援していることだ。「データマイニング」や「回帰分析」はまったく行わないという。過去の事実を延長して考える方法ではなく、事業の強みや新しさを核に行動計画を練り上げていく方法をとるという。

 小川氏は、BIが普及することは「基本的には良いこと」としながらも、その使われ方が「近視眼的あるいは対処療法的」になってしまうことを懸念する。ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBAで起業学を専攻し、米国でベンチャー企業にコンサルティングを行ってきた同氏はによれば、「日本の企業は、5年先10年先を見据えた行動に結びつくビジネスプランニングという考え方がまだ弱い」と感じているという。

 事業計画において、マイクロソフトの「Excel」は日本の企業でもよく使用されるツールだ。しばしばワークシートに詳細な数字がずらりと並ぶと、その数字の行列を眺めただけで何だか納得した気になるかもしれない。

 しかし、それらの数字はワークシートを作成した人の「こうなったらいい」という個人的な意見に過ぎないと小川氏は指摘する。「個人の意見に対する他の意見を集めなければ、そのプランは鍛えられない。ところが実際には個人の意見のままであることが多い」とする。

 また、他人が書いたワークシートはその内容と背景が理解しにくいと小川氏は指摘する。確かにセルの中の計算式を確認しなければ、どのような計算でその数値が導き出されているのかは見えないし、絞り込まれた数字しか記載されていないため、いかにも数字が変動しないもののような錯覚を覚えてしまい、そこに隠されたリスクを見落としてしまう可能性もある。だからこそ同氏は、数字を使って議論すること、コミュニケーションで「プランを鍛え抜く」ことが重要なのだと言う。

 同社では、この「プランを鍛え抜く」プロセスを取り入れるための「デシジョンシェア」というソフトウェアを提供している。同ソフトはExcel上で動作するビジネスシミュレーションソフトウェアで、ビジネススクールや大学向けの教材として大学生協などでも販売されているそうだ。同ソフトでは、仮説の変化(数字の変動)による影響度合いを可視化して共有でき、手軽に不確実性分析に取り組むことができるツールだという。

デシジョンシェア 「デシジョンシェア」には、仮説を検証し、議論するための機能が用意されている(画像クリックで拡大表示)

 小川氏は「企業は定量的分析を活用して、事業の未来をひたすら考え抜くプロセスを取り入るべきだ。5年先、10年先の未来を考えるのは正解のない世界。だがベストを引き出す努力を尽くすことはできる」と話す。

 今回の連載では、「分析を行っても、その結果を元に行動を起こせなければ意味がない」ことを繰り返し述べてきたつもりだ。事業計画の目的とは、実現可能性のある未来の数字を示し、それに基づいた行動を促すことだろう。計画の数字が、独りよがりな「個人の意見」のままであるならば、いつまでも経っても不確実性の霧は晴れることはない。先の見えない状況の中で、可能な限りベストな意思決定を行っていくために、さまざまなシナリオを想定してプランを鍛える「不確実性分析」は、ユニークなアプローチのひとつとなるのではないだろうか。

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