――なるほど。経営革新という言葉は、日本でも久しく使われてきましたが、Aronさんのおっしゃるマネジメントイノベーションは、階層型組織をはじめとして、これまでの企業経営の在り方を根本から変えるべきだと。IT活用以前の取り組みがまず大事になりますね。
小西 その通りです。マネジメントイノベーションを推進するためには、まずCEO(最高経営責任者)が自らの会社をこう変えたいという方針を明確に示し、それを実践するための組織体制に変え、そして管理会計制度を変えるといった取り組みが不可欠になります。
効果的なビジネスインテリジェンス
――では、そうしたマネジメントイノベーションに対して、活用できるITとはどのようなものでしょうか。
Aron ITに関するお話をする前にまず申し上げておきたいのは、マネジメントイノベーションの取り組み方において、こうすればよいという決まったパターンはありません。それはそれぞれの企業によって違います。ただ、共通しているのは先述したように、これまでの経営の意思決定の在り方や仕事のやり方を変えていくことです。
とはいえ、これからマネジメントイノベーションに取り組んでいくうえで、多くの企業に共通する1つのアプローチがあります。それは経営の意思決定の在り方を変える取り組みでもあるのですが、要は顧客と接する、いわゆる前線にいる社員たちの意見を吸い上げる仕組みを作ることです。
そこで効果的なITとして活用できるのが、ビジネスインテリジェンス(BI)やソーシャルネットワーキングです。とくにBIは、かつては経営層だけが利用する形でしたが、最近では社員が前線の情報を素早く入力して、社内の情報共有や個々の業務ごとの意思決定に生かすものとなってきており、マネジメントイノベーションの取り組みには欠かせないITツールとなりつつあります。
――ただ、BIについては、導入したものの使いこなせていないという企業が少なくないように見受けられます。
Aron 確かに、私もBI導入がうまく行かなかったケースを少なからず見てきました。なぜ、うまく行かなかったのか。これはBIに限らず、どのITツールの導入時にも言えることなのですが、そのビジネス価値を的確にとらえて最大限引き出すのが目的であるにもかかわらず、どのITツールを採用するかについ傾注してしまうからだと、私は見ています。
つまり、ITツールの見栄えの良さに翻弄されて、結局は何のビジネス価値も生み出さない、間違ったところで使ってしまっていると。こうした状況を英語では“Great landing Wrong airport”、「うまく着陸したけど、違う空港に降りてしまった」と言います。
――マネジメントイノベーションに取り組む中で、IT部門の役割も変わっていくのでしょうか。
Aron ITだけでなく、ビジネスプロセスの改善やリスクマネジメントなどにも責任を持つ形になっていくと思います。また、アウトソーシングについてもITそのものに加え、ITを活用したビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)もうまく使いこなしていく術が求められるようになるでしょう。CIOとIT部門の社内での責任範囲は今後、着実に広がっていくと思います。