Linuxの成熟とともに、その世界はますます広がる
さらにZemlin氏は、世界が今Linuxに注目する理由として「インターネットの本質的な変化」「コスト削減に対する貢献」「PCクライアントの性質の変化」「IT産業のサービス経済へのシフト」の4つを挙げた。
インターネットの本質的な変化とは、スマートグリッドの導入などにより、インターネットに流通する情報量の爆発的な増加が引き起こすさまざまな変化だ。このような将来に備えるための鍵となるのが「インスツルメンテーション」、つまり計装だとZemlin氏はいう。膨大な数のトランザクションをカバーするための組み込みシステムなどへのIPアドレスを割り当て、ネットワークサーバを使ってのデータ収集と蓄積。また、それら膨大な情報を迅速に分析するためのスーパーコンピュータ。その上で、その情報を必要している人たちへの配信。これら全てをさばくさまざまな「機器」が必要となる。それらすべてに最適なのがLinuxだとZemlin氏は語った。
また、コスト削減に対する貢献について、Zemlin氏は、まさにこの問題に直面している日本にとって特に重要だとしている。その典型として、機能の複雑化に伴なう開発コストの高騰と製品寿命の短縮により、従来のクローズドモデルから開発モデルの転換を余儀なくされている携帯電話を例に挙げ、収益性において多くのプレッシャーがメーカーに対してかかっている現状を説明した。そして、この課題を解決するための方法としてコラボレーションによる開発を示し、オープンソースとしてのLinuxが社内開発にかかるコストを軽減するものだとした。さらに、短周期での開発でもライセンスの許可を得る必要がないため、自らアップストアを開設できるなど、Linuxの利用は新しい収入源も生み出す可能性を秘めていることを示唆。これらの事実が多くの企業をLinuxに向かわせている理由だと解説した。
3番目の理由であるPCクライアントの性質の変化については、黎明期から今日に至るコンピュータの歴史に触れ、2010年の現在においては、「デスクトップの時代から、モバイルコンシューマの時代」に移っているとZemlin氏は語った。その上で、現代のキラーアプリケーションはインターネットであり、その接続はかつてのPCによるものだけでなく、あらゆるデバイスに拡大していること。また、それにともなうマーケットニーズに対応し、これらの機器の安価な提供を可能にしているのはLinuxであること。これらモバイルデバイスの条件として、パーフェクトであることがLinuxの注目される理由だとしている。さらに、同様の意味で、これからのトレンドを決定するのはLinuxであると語った。
最後に挙げたIT産業のサービス経済へのシフトについてZemlin氏は、昨年に予測したことがまさに現実になってきていると語った。IT産業のビジネスモデルは、ハードウェアからクラウドコンピューティングなどのサービスへと移行しつつある。エンタープライズコンピューティングの分野においても、Salesforce.comを筆頭に、新時代のIT産業として全てを「革新」に投資してサービスを改善していくというビジネスモデルが着実に成長している。また、GoogleやAmazon、Facebookを支えるサービスプラットホームとしてLinuxが事実上の標準になっていることを挙げた。Zemlin氏は、「使い易くてシンプル、そしてうまく管理ができるようなサービスの提供。これこそがエンタープライズのITが向かっていくべき姿だ」とした上で、「企業が将来に向けて目指すこれらの“IT as a Service”は、Linuxによって可能になる」のだという。
最後にZemlin氏は、「この4つの主要なトレンドに共通しているのは、Linuxがそれを実現しているという点」であるという。また、「いまや150憶ドルのエコシステムに成長したLinuxは、成熟とともにその世界はますます広がる一方だ」と語って講演を終えた。