走り高跳びでは、新しい飛び方が考案されるたびに、記録が従来の限界を上回って伸びてきた。従来のやり方のまま、その飛び方をより精緻化するようにトレーニングを重ねても、新しい飛び方を身につけた選手には勝てないわけだ。これがBox1のアプローチの限界だということになる。
また同氏は、イノベーションの成果を見積もるための考え方として「Breakthrough Idea」と「Breakthrough Execution」(アイデアと実行)のかけ算という考え方を紹介した。かけ算なので、一方がゼロだと結果は常にゼロになる。つまり、革新的なアイデアがなければイノベーションは全く起こらないが、アイデアだけが豊富でも、実行力に欠けていればやはり何も実現しないわけだ。
多くの企業では実のところアイデアの方に重きを置いており、実行を軽視している面があるそうだが、かけ算である以上、両者をバランス良く伸ばすことで掛け合わせた結果もまた大きくなる。同氏はエジソンの有名な言葉として「発明は1%のインスピレーションと99%の努力(perspiration)」に言及し、これをイノベーションは、アイデアよりもむしろどう実現するかが重要だ、という意味で紹介している。
同氏はまた、イノベーションを実現する際のポイントとして、「既存のコアビジネスから人を動かすのではなく、新規の人材を集めて専念させる」「既存のコアビジネスから遮断してしまわず、有利な部分をうまく活用できるようにする」「失敗を恐れない。早く失敗すればその代償もより安くすみ、経験を蓄積できる」といった具体的なノウハウも紹介した。
現状の枠組みの中での進化を目指すというのは、日本が得意とする「カイゼン」のアプローチでもある。これは、枠の中での最高の成果を実現できる可能性はあるものの、逆に最高到達点が最初から見えている取り組みだとも言えるだろう。同氏の話を聞いたからと言って即座にイノベーティブな企業に変革できるはずもないわけだが、イノベーションを実現するためにはさまざまな「発想の転換」が必要だということは良く理解でき、有益な講演だった。