Knipp氏は、Oracleが「Cloud in a Box」(箱に入ったクラウド)として発表した「Exalogic」について、「大きな箱にストレージとコンピュータ、そしてOracleのソフトウェアが入ったもの。簡単に言うとメインフレームに似ていて、クラウドのような柔軟性はない」と説明する。また、IBMの「CloudBurst」についても、「既存の製品をパッケージしなおして提供しているだけだ」と話す。
では、Oracleがクラウド製品として発表したExalogicは、どのように活用するものなのか。Knipp氏は、「Oracle製品をどっぷり利用している企業であれば、Oracleが搭載されたさまざまなベンダーのサーバを統合するために活用できる」と言う。「サーバベンダーが異なれば、管理も複雑でコストもかさむ。多種多様のサーバを抱えた巨大なデータセンターでサーバ統合のためにExalogicを導入すれば、台数も少なくなり、管理もしやすくサポートも1社から受けられる。この点では価値のある製品だ」とKnipp氏。
クラウドという観点でExalogicを見ると、「クラウドサービスの基盤としてExalogicを活用することも可能だが、実際にはマルチテナント形式は自ら構築する必要がある。Exalogicそのものに拡張性や柔軟性、使用量を計算して課金するシステムなど、クラウド提供のために必要なツールは備わっていないため、サービス展開に向けた作業はそう簡単ではない」とKnipp氏は指摘する。
ただしKnipp氏は、こうしたベンダーも真のクラウドサービスを提供するだけの技術や能力は持っているという。それでもクラウドをマーケティング用語としてのみ活用しているベンダーが存在する理由についてKnipp氏は「例えばOracleは、ユーザーがこれまでに投資してきたシステムをリプレイスし、戦略的にクラウドにコミットする準備ができていないとしている。Oracleのこの考えは短期的には正しい。Oracleからの移行は非常にコストがかかるからだ」としている。しかし、長期的にはOracleもFusion Middleware製品群をマルチテナント型にするという計画を立てており、「(マルチテナント化は)Oracleにとって戦略的な目標ではないかもしれないが、長期的に考えると今後戦略を変えざるを得ないだろう」(Knipp氏)としている。
避けられないパートナーとの対立
Knipp氏はさらに、SAPのクラウドサービス「Business ByDesign」についても問題を指摘する。Business ByDesignはSaaS型のERPスイートだが、Knipp氏は同スイートがまだ市場に浸透していないことに加え、販売パートナーがBusiness ByDesignを積極的に売り込むインセンティブがないことが問題だとしている。「Business ByDesignは従来のSAPの導入に比べると売上金額もわずかなものだ。たいていのパートナーやシステムインテグレーターはこれまでSAPの大規模導入で稼いでいたため、今後も従来の製品を売り続けたいと考えている。この問題は当面続くだろう」(Knipp氏)
同様の課題はMicrosoftにもあるとKnipp氏は言う。同氏が懸念を示しているのは、Microsoftが7月に発表した「Windows Azure Platform Appliance」だ。
これは、Hewlett-PackardやDell、富士通といった企業がパートナーとなり、Azureサービスを提供したいと考えているクラウドプロバイダーに向けて販売するものだが、Knipp氏は「Azureをサービスとして使いたいユーザーは、販売パートナーを通じてではなく直接Microsoftからサービスを受けたいと考えるだろう」と指摘する。「ソフトウェアの開発元であるMicrosoftが名もない企業である場合は、パートナーの販売網を利用して拡販することも理にかなっているが、Microsoftはすでにどの市場でもプレゼンスがあり、自社でサービスを販売する力も持っている。となるとここでもパートナーとの対立が起こってしまう」(Knipp氏)