MBBについて知ったのは、知人から面白いから読んでみろと渡された『MBB:「思い」のマネジメント―知識創造経営の実践フレームワーク』という一條和生氏、徳岡晃一郎氏、野中郁次郎氏による共著に触れたことによる。著者はいずれも、いわゆる経営戦略というよりは、ナレッジをベースとした組織活性論で活躍されている方々である。
一條和生氏と徳岡晃一郎氏による『シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略』は以前、このコラムがブログ形式だった時に紹介した。野中郁次郎氏はいわずと知れたSECIモデルの提唱者である。
この本によれば、日本のマネジメントはバブル崩壊後から導入された成果主義に基づくマネジメント手法、目標管理(Management By Objective:MBO)によっておかしくなったという。つまり、社員は数値などの必達目標に縛られて汲々とし、一体それを何のためにやっているのか、何のために仕事をしているのかということを考える習慣がなくなってしまったというのだ。そのために、創造力やイノベーションも失われた。
著者は、MBO自体を否定していないが、MBOと思いのマネジメントであるMBBを組み合わせていくべきであるとしている。思いのマネジメントとは、経営陣が何を成し遂げたいのか、という数値目標や短期的な経営目標を超越した思いを語り、従業員もそれに対して自分の仕事に対する思いをぶつけていく、その過程を通して思いを共有し企業の成長につなげていくプロセスである。
今、情報サービス産業に求められているもの
『MBB:「思い」のマネジメント』を読んだとき、今情報サービス産業に欠けているのはこれだろうと強く感じた。産業自体が縮小する中で、売り上げや開発管理に関する達成目標で縛られて汲々としている様は、まさに目標管理の弊害である。顧客から単価削減の要請を受けながら、一体自分たちの付加価値が何なのか、何のためにこんな苦労をしているのかが分からなくなる。その解決策というのは、必ずしもオフショアリングによる原価削減ではないのである。
むしろ、何のためにこの仕事をしているのかという思いを改めてあぶり出し、その目標に向けて歩みだすことであろう。すると、そこから創造力とイノベーションが生まれ、新たな付加価値を顧客へ提供していくことができる、そして産業自体をさらに成長させることができる。このプラスのサイクルへの転換を助けるのが思いのマネジメント、MBBではないだろうか。

筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。