Generation Yと貯金
来春卒業の大学生の就職内定率が57.6%。低迷する株式相場。投資よりもやっぱり貯金。こうした流れは日本だけではなく、現在の米国も同様であるようだ。
「FinanceTech」誌の記事「Generation Y:The New Depression Generation?」では、最近の米国の若者、つまりネット世代とも呼ばれる“Generation Y”が、就職難と経済不況の影響で、投資よりも貯金を好む傾向にあることを報告している。その特徴は、もともとはリスク商品へ投資しようと思っていたが、結局それを諦めて貯金に回しているということである。
Generation Yと言えば、一般的にはネットとともに育った世代としてネット系のビジネスやサービスと関連付けて語られることが多い。しかし、この記事では、Generation Yが育った経済環境を概観し、2000年のネットバブルの崩壊、住宅価格の崩落、リーマンショックとそれに続く高い失業率と、物心ついてからろくな目にあっていない世代であると分析する。その結果として、投資よりも堅実な貯金を好む傾向にあると。
新子供銀行
こうした状況を狙ってか、米国のオンライン専業銀行であるING Directが新しい金融商品の提供を開始した。18歳以下のみを対象とした子供向け口座サービス「Kids Savings Account」である。これは、単なる教育コンテンツの話ではなく、リアルな子供向け銀行口座である。
親が子供の名義で口座を開いたり、あるいはサブ口座のようなものを作るというのは今でもできる。また、単に18歳以下でも口座を開設させるということでもない。
この口座の特徴は、子供にも実際に口座へのアクセスを可能とし、残高やステートメントを照会したり、口座に付随する情報を変更したりすることができる。ただし、資金の移動についてのみは親の承認がないと実施できないような仕組みとなっている。そして口座にはきちんと金利が付く。
要は、資金移動ができない子供向け口座なのだが、親が子供に貯金の大切さや金融サービスの利用方法を学ばせるには格好のツールとなる。かつ、この口座は子供の年齢が18歳になると自動的に一般口座へ転換される。ING Directからすると、若年層を子供の頃から囲い込むことができるわけである。
貯金志向を強めるアメリカ
このING Directのサービスを先のGeneration Yの記事と結びつけて考えると、実に時宜を得た商品提供だと言えるだろう。PNC Bankという別の米国の銀行は、「Virtual Wallet」というGeneration Yをターゲットとした金融サービス立ち上げているが、これも貯金のしやすさを一つの特徴として備えたものであった。しかし、ING DirectのKinds Savings Accountは18歳以下のみが対象なので、ターゲットはVirtual Walletよりさらに下の世代である。
先の記事は、Generation Yがある世代と似ているのではないかと締めくくっている。それは1929年の世界恐慌を経験した世代である。
このように、一つの世代が体験する金融経験が新しい金融商品を生み出していく様を観察するのは面白いが、米国が投資から貯金へと志向を変えていくことはリスクマネーの減少へ繋がってしまう点で懸念すべき話である。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。