急に外の様子が気になってきた日本

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2010-12-06 08:00

 中国のソフトウェア企業と日本のソフトウェア企業の交流会に参加した。その中で、ある日本のソフトウェア企業の経営者が、中国のソフトウェア企業に「日本市場への進出と、中国市場でのビジネス拡大のどちらに興味があるか?」と質問したところ、「中国の方がまだまだ伸びるから中国である」という主旨の回答をしていた。

 また、別の会合でシンガポール証券取引所の方が、上場企業767社のうち、実に40%が外国企業であると言っていた。これは東証が2292社中12社(記事執筆時)で、わずか0.5%であることを考えると、その特性において大きく異なることが分かる。シンガポールでは外国企業の上場が、年間上場企業の半数を上回る年も多いとのことだが、日本ではむしろ外国企業の上場廃止という話題の方が多い。

 いずれも、成長戦略を描けない日本市場には魅力を抱くことができないということの証左である。日本語や制度面での問題も取り沙汰されるが、要はそれらのハードルを上回るだけのメリットがあれば、日本へ積極的に進出したり上場したりという行動に出るはずである。それが縮小しているということは、その魅力が減じていることに他ならない。

 そして、日本の内需が今後縮小することを見越して、近年新興国を市場として開拓することを目的としたグローバル人材育成の話題がにわかに新聞を賑わしている。語学研修を充実させたり、社員の海外派遣を増やしたり。企業戦略としてグローバル市場を狙うこと自体は否定されるものではないが、市場が小さいこと自体がその国の魅力を減じるわけではない。これは、アジアの有力取引所のあるシンガポールや香港が正に示してきたことである。

 つまり、日本企業が日本から海外へ資本や人材をシフトしたとき、何を競争優位として戦っていくのかを考えておく必要がある。展開する当初は、これまでに蓄積してきた何らかの強みを持って展開を行うことになるが、中長期でベースとなる国内市場が縮小していくとき、徐々に持てる強みが希薄化していくことが懸念されるのである。グローバル化とは、多様化でもあるが故に、自社や自国のアイデンティティというのはむしろ今まで以上に問われるものだろう。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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