取引先がビジネス拡大、業務処理が追いつかない
2009年秋以降に、中国、東南アジアといった海外の好況の波に乗る形で、同社の取引先がビジネスを拡大。取引量が急激に増加しはじめたのだ。ビジネスの拡大は歓迎すべきことだったが、一方で営業の業務量が増加。さらに、経理部門からは顧客である家電メーカー向け業務の経理処理が遅延しているとの声が出始めた。
「経理処理や入金の消し込みが遅れ始めると、管理部門の人間は、その取引自体が混乱しているのではないかとの疑念を抱きがちになる。一方で、取引はどんどん増え、業務効率化のために、システムを追加で開発したいという要望も出てくる。このままの状態での追加開発は危険だとの意見が出始めた」(大三川氏)
三菱商事ユニメタルズは、単に原材料を購入して、そのまま顧客に納入するわけではなく、注文に基づいて、パートナーへ部品の手配、組み立て、納入までの指示を一貫して行う。そのため、処理すべきプロセスも複雑で、取扱量に比例して業務の量も乗算的に増加していく。こうした状況で発生した経理処理の遅れ。システムの追加開発に危険を感じたのも無理はない。
この課題に直面し、三菱商事ユニメタルズでは、今回の事案の現場である大阪支社に直接出向き、ヒアリングを行った。この事案の抱える「真の問題」がどこにあるかを正しく見極めることが目的だ。
ビジネス部門からIT部門へ
大三川氏は、三菱商事に入社以来、早くからIT化が進んでいた鉄鋼部門の営業としてコンピュータを使った業務処理に携わった。長崎支店に赴任中の90年代前半には、タンカー建造や中国、東南アジアにおける電力事情改善といった需要に伴い、大量に発生した鋼材需要に対応すべく、情報システム部門との連携のもと、業務の効率化に取り組んできた経験がある。さらに本社に戻ってからは、ERP導入を前提としたBPRの旗振り役や、社長室直属の情報システム企画部門などを通じて、三菱商事の情報化に携わってきた。
大三川氏が三菱商事の情報子会社であるアイ・ティ・フロンティアで、ITマネジメント部門の担当役員を務めるに至り、同氏は「IT部門とビジネス部門の現場の距離が空きすぎたという印象を持った」という。そこで、その距離を近づけるために、ビジネスプロセスの可視化、分析、デザインをする専門セクションとなるBPE(ビジネスプロセスエンジニアリング)サービス部門を立ち上げた。時にグローバル企業においては「内部統制」の必要性が声高に叫ばれ始めた時期でもある。BPEサービス部門では、「業務フロー」「業務記述書」「リスクコントロールマトリクス」といった文書を通じて、業務プロセスの可視化を行うことで、経営上の要請に応えていったという。IT、そしてBPMを通じた問題解決については、多くのノウハウがあったといえる。