「東京だからですよ、部長。これから部長の会社、ジャカルタとかにも進出するんですよね? もっと言うと、ベトナムとか行くんですよね? そこの人たちがビジネス伸ばすんですよね? そこの人たち、どうするんですか? しかも、そこがこれから成長するんですよね? しかもですよ。成長するからって、ガンガン人を採用するんでしたっけ? しないでしょ、普通」
「あぁ、ウチは絶対に人は増やさない」
「でしょ? それと部長、ゼロかイチかの議論じゃないんです。そういう選択の議論ではなくて、自分の中の情報源のラインアップの問題なんですよ。対面でやることも必要。ITでできることをやることも必要。両方あって何が悪いんですか。いいことしかないでしょ?」
「ま、そういうのも、やっていかなきゃとは、思っているよ。でもねぇ~」
人材育成の目的はどこに?
「じゃ、どうしてできないのか。金がないとか、そういう言い訳もあるんですけど、一番の問題はそういうことが“企画できていない”ことなんですよね」
「ん? 良くわからんなぁ」
「いやぁ、ここからは、人材の話に移るんですけど、端的に言うと“企画ができない”という言葉に集約されてくると思ってます。ただ、この一言には、単純な企画の品質のことだけを言っているわけじゃない。どういうことかというと、まず、今の維持管理の仕事をするために、時間がとられてしまって、実質的に動ける余裕がない。更に、そういう人たちは、どっぷりと今の仕事に漬かっていて、新しいことを考えていくだけの構想のジャンプ力というものを暫く使っていないで、『いきなり考えろ』と言われてもできない。変化を起こそうと、いろいろとやってはいるとは思うんですけど、なかなか、これが形になるようにはなっていない」
「うぅむ」
「もう少し言えば、人もいないし、育ってもいないってことだと思います。これはベンダーも一緒。維持管理や運用などを極力効率的にやるために、長年メインベンダーと信頼関係を築き、最適化してきた。でも、そのベンダーも同様に、どっぷりと今の仕事に漬かっていて、新しいことを考えていくだけの構想のジャンプ力というものがない。社内の他の部署にいるじゃないかという議論もありますが、それは他で使われているので、そういう人自体を連れてくることさえできない」
「そうなんだよ。人材育成は永遠の課題。結局はそこにたどりつく。でもさ、ウチだって人材育成するために、UISS(情報システムユーザースキル標準)入れたりとかさ、研修プログラムの充実とか、プロフェッショナル化に向けた取り組みとかさ、いろいろやってるんだけど、どうも実感がないんだよねぇ」
「2つ欠けているものがあります。1つは、日本人の悪い癖だと思っているんですけど、“人”に着目しすぎるところです。人のことはすごく気にかけて『育ってくれ!』って思っているんですけど、“職務”ってことに余り重きを置いていない。アメリカ企業の組織図を見てもらうとわかるんですけど、組織の上から下まで、全員“ポスト”がある。組織図の中に、担当レベルでは良くTBD(To Be Determined、「後に決定するが現状は未決定である」を指す言葉)って書かれてあります」
「へぇ~」
「要は、どんな仕事がこの組織には必要なんだ! ってことが良く考え抜かれている。だから、すべての職員が、あのポストにつきたいと思ったら、何すればいいか、ってのが明確なんです。明確だと、自分が何をしなきゃいけないか分るでしょ、普通に。でも、日本はそれがない。『育て!』っていう親心はあるんですが、そこに“What”が欠けている状態。これでは、育ちませんよ」