(2)準委任契約
一括請負契約を除いて、アジャイル開発で最も認知度が高い契約モデルがこの準委任契約でしょう。ご存知の方も多いと思いますが、準委任契約とは契約時に決めた期間、契約した業務を誠実に実行することを受注者が発注者に約束するものです。
準委任契約では一括請負契約と異なり、受注者である開発側は当該機能群の完成義務および瑕疵(かし)担保責任を負いません。しかし一方で、開発側は業務遂行にあたり、専門家としての「善管注意義務」(善良な管理者の注意義務)を負っています。
従って、専門家たる開発側の業務品質が業界の一般的な水準を下回っていた場合には、開発側は債務不履行による完全履行請求(品質を一般的なものにせよという請求)や契約を解除される可能性があります。しかし、善管注意義務に違反するかどうかの判断が難しく、顧客側にリスクがあるため、現状では準委任契約の利用はあまり進んでいないと思われます。
受注者である開発側には歓迎されやすいこの準委任契約ですが、発注者の顧客企業にとっては、「ソフトウェアの完成がいつになるか見えない」「工数とコストがどのくらい膨らむのかわからない」といったリスクを抱えることになります。そこで仕様策定までを準委任契約、それ以降の開発を一括請負契約で行う方法をとることで、仕様を決めないと契約が締結できない一括請負契約と相互の欠点を補います。
【契約事例】
・短期ごとに準委任契約を繰り返す
1~3カ月の単位で準委任契約を結ぶモデルで、仕様を決めることができずに短期の請負契約が結べない場合に使われます。これも、1チーム10名以内で開発する比較的小規模な案件に向いているといえます。
特に、初期開発がひと通り落ち着き、メンテナンスフェーズに入ったプロジェクトで採用されることが多いようです。初期開発が終わると、発注者と受注者の間で信頼関係が生まれていることが多く、準委任契約であっても顧客側に受け入れられやすいという点が特徴です。
メンテナンスフェーズに入ったプロジェクトでは、顧客からの要望が細かく上がってきます。つまり1カ月先の成果物ですら明確に規定することが難しい場合が多いのです。しかし、工数と期間が定まっている準委任契約であれば、開発側はエンドレスに要望を受けるリスクから解放されます。また顧客のほうも「1カ月あればこれくらいは対応してくれるだろう」と予想することでリスクを回避することができます。