組合モデルの契約案
・契約で想定している内容
この契約で想定しているケースは、顧客と開発側が共同で企画、開発した成果物であるパッケージソフトやサービスを運用して収益を得て、それを分配するような場合です。従って短期の開発案件よりは中長期のプロジェクトが向いています。
この契約では顧客と開発側の間にすでに信頼関係が出来上がっていることが前提となっています。また、出資額を決める必要があるため、契約締結段階でプロジェクトの全体概要や予算が決定していなくてはなりません。
出資の形態としては、顧客は金銭を、開発側は労務をそれぞれ出資します。また、この契約には顧客、開発側以外のプロジェクト運営には関与しない投資家が組合に参加することも可能です。
プロジェクトの具体的な内容については、顧客と開発側が組合の業務執行権限を有する業務執行役員として連絡協議会を開催し、その中で決定、遂行していくとしています。そして、協議の結果、開発することが決定した機能群については、組合から開発者に対して、リリース単位で請負契約に基づく開発委託を行うことになります。
なお、本契約案はあくまで試案であり、改善の余地を多く残しています。ビジネスモデルとしては、未検討な要素(組織体制、資金の出資と分配、解散時の処理など)が多いため、実際に適用される場合には十分な考慮が必要です。
・アジャイル開発プロセスモデルとの関係
プロジェクトの全体期間または、3年、5年等一定の期間に区切り契約をします。各イテレーションでの開発機能、および各リリースの時期や提供する機能については、連絡協議会で決めます。
・契約の概要
ここでは「アジャイル開発=顧客と開発側の共同事業」ととらえており、共同事業契約を締結します。アジャイル開発の特徴である「開発側と顧客の緊密な協力体制」をそのまま契約に反映しています。
・契約案
組合モデル契約案を別ファイルにまとめましたので、必要に応じて参照してください。
- 組合モデルの契約書案(リンク先はWord文書)
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以上、IPAが推奨する2つの日本市場に適したアジャイル開発における契約モデルを簡単にご紹介してきました。
双方とも、アジャイル開発の根幹である「顧客と開発側の緊密なコミュニケーション、コラボレーション」をベースにしています。いずれもまだ新しい契約モデルですので改善の余地は大いにありますが、今後、事例が増えていくに従って、さらに洗練された“日本市場に適した”アジャイル開発の契約モデルが現れると確信しています。
どちらかというと、基本契約/個別契約モデルは、アジャイル初体験の顧客とのプロジェクト、短期のプロジェクトなどに向いていると言えるでしょう。一方で組合モデルのほうは、双方に信頼関係が構築済の中長期プロジェクトが適していると言えます。もちろん絶対的なものではありませんが、プロジェクトの規模や性格と照らし合わせるとき、ある程度の指標になるかと思います。
これまで3回に渡ってアジャイル開発の概要を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。紙数の都合上、お伝えできなかったことも数多くありますが、アジャイル開発というスタイルの可能性について、顧客、開発者を問わず、ソフトウェア開発の効率化を目指すすべての方々にとって、少しでも参考になったのであれば幸いです。
ソフトウェア開発においては、対象ソフトウェアおよびそれが使用される社会やビジネス環境の特徴と、開発組織やプロジェクトの状況に応じて最もふさわしい開発手法を用いることが望ましいのは言うまでもありません。逆に言えば、各ソフトウェア開発手法には、それが適した対象ソフトウェアや組織、プロジェクトがあります。従って、開発対象をよく理解し(相手を知り)、開発組織・プロジェクトを十分見極めた(己を知る)上で、アジャイル開発やウォーターフォール型開発などの適切な開発手法の選択を行うことが重要です。そして、双方に適さない点があれば、それをできるだけ正していくようなマネジメントが求められます。
詳細な報告書はIPAのウェブサイトで公開しています。今回説明を割愛した契約の事例なども含まれていますので、興味を持たれた方は、そちらをご覧いただければと思います。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)
エンタプライズ系プロジェクト
研究員:柏木雅之 プロジェクトリーダー:山下博之
IPA SECは、より信頼性の高いソフトウェアを効率よく開発できるようにするため、開発プロセスの標準化や改善、プロジェクトの“見える化”や“測る化”などの分野で産学官の力を結集してソフトウェア技術の開発・普及や人材の育成に取り組んでいます。
ZDNet Japan 事業継続フォーラムのご案内
朝日インタラクティブは6月22日、都内で「ZDNet Japan 事業継続フォーラム」を開催します。ヤマト運輸 情報システム部長による基調講演「ヤマトグループが取り組んだ広域災害対策の歴史」、仙台のIT企業 トライポッドワークスによる特別講演「大震災で通信と物流がストップ--仙台のIT企業はいかにして事業を継続したのか」などを予定しています。皆さまのご参加をお待ちしております。
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