企業のガバナンス強化とCIOの役割(前編)
東日本を襲った大震災のように予期せぬ事態や目紛しく変化する市場環境への対応に向け、企業はこれからどのようにガバナンスを強化していけばよいのか。その中で最高情報責任者(CIO)はどのような役割を果たしていくべきなのか。この分野のアナリストとして第一人者であるTina Nunno氏(Gartner CIOリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト)に聞いた。
組織の統治だけではないガバナンス
――「ガバナンス」は、日本語では「統治」と訳され、まさしく“統制して治める”という意味で理解されています。それで正しいのでしょうか。

確かに「ガバナンス」という言葉には、組織をコントロールするという意味合いがあります。組織をコントロールするためには、予め決められた手続きやルールに則って統制していかなければなりません。その意味では、組織としての取り組みとしてはコンプライアンス(法令遵守)と似通ったところもあります。
ただ厄介なのは、予め決められた手続きやルールが階層的に幾重にもなってくると、組織としての柔軟性を失いかねないことです。組織が硬直化すると、意思決定のスピードも遅くなり、活力を失ってしまいかねません。したがって、経営層はそうならないように、ガバナンスをもっと有効に働かせるように努力しないといけません。
それもさることながら、組織をコントロールする上でもう一つ大事なポイントとなるのが、人材というリソースを必要なところに適切に配置することです。ただ、これもともすれば、定期的な人事異動を行うことによって組織をコントロールしていると。つまりガバナンスを働かせていると捉えてしまいがちなところがあります。
そこで強調しておきたいのは、ガバナンスというのは単に組織をコントロールするだけでなく、実は企業の競争力を高めるものであるということです。
ガバナンスに必要な発想の転換
――ガバナンスが企業の競争力を高めるとは、どういうことですか。
先ほどの人材リソースの話を例に取ると分かりやすいかもしれません。組織をコントロールする上で大事なポイントとして、人材リソースを必要なところに適切に配置することとお話ししましたが、そこには企業にとっての戦略が必要となります。言い換えれば、人材リソースをどのように戦略的に有効活用するか。その最終的な目的は、まさしく企業の競争力を高めることにあります。
最終的な目的がそうならば、発想を転換してみてはどうか。つまり、企業の競争力を高めるためにガバナンスをどう働かせればよいか。まず、この発想の転換をしてみてはどうか、というのが私の提案です。
この考え方は、企業にとっての投資とも似通っていると思います。企業が投資を行う場合、自社の活動全体を見渡して、どこにどれだけの投資をすれば、どれだけの価値を生み出せるかを測ります。
一方で、ここにこれだけの投資を行った場合、生み出しうる価値と裏腹にどれくらいのリスクが想定され、それがどれくらいまでならば許容できるのかも測ります。ガバナンスの観点でも、投資と同様、生み出しうる価値とリスク評価が非常に重要なポイントとなります。
私たちがこれまで多くの企業をリサーチしてきた経験からも、優れたガバナンスを発揮しつつある企業はどこも、ガバナンスを競争力の源泉と捉え、投資と同様、生み出しうる価値とリスク評価をしっかりと把握しようと努めていると言えます。
もっと分かりやすく言えば、企業にとってのガバナンスはすなわち、“守る”ためのものではなく、リスク評価も含めて“攻める”ためのものなのです。