統合基幹業務システム(ERP)やサプライチェーン管理システム(SCM)、顧客情報管理システム(CRM)など、企業内で稼働するさまざまなシステムに蓄積されるデータを分析して、その結果から企業の“今”を知る――。こうしたビジネスインテリジェンス(BI)を超えるものとして注目を集めているのがビジネスアナリティクス(BA)だ。
SAS InstituteはBAを数年前から提唱し、顧客の特性に応じて多彩なデータ活用を推進している。だがその一方、SASが提唱するBAという考え方の市場への浸透はこれからというのが実情だ。欧州を拠点に活動する同社フェローのAllan Russell氏に話を聞いた。
BIとBAは相互補完関係
――まず最初にBIとBAの違いはどこにあるのでしょうか。 また、BAの優位性は何でしょうか。
BIという言葉は、かなりの企業でレポーティング機能と同義に使われています。それは特に悪いことではないのですが、10~20年前、多くの企業は自社で何が起こっているかを把握していませんでした。
その後、どこにどのくらい投資するか、どのくらい販売したのかなど、さまざま情報が要求されるようになりました。そういった情報を入手し、対応することが企業活動の第一歩となったのです。
そして現在は、企業に何が起きているのか、なぜ起きているのか、それはどのような影響を及ぼすのか、悪い影響がある場合は改善できるのかといった情報が求められるようになっています。
BIは、そういった質問を促すものです。BAはそれに答えるものと考えています。BIは情報をあずかり、BAは意思決定に関するものという位置付けです。
――ということは企業はまずBIを導入し、続いてBAも導入するという流れになるのでしょうか。
確かに、過去を振り返るとそういう状況になっています。まずは情報が必要だったのです。でも今は新しい局面を迎えており、BIとBAを同時に入れることが必要になっています。
また、BAはBIと置き換わるものではないのです。BAは、ビジネスの結果を改善するものであり、そのためにはBIやレポーティングが必要になります。これは、改善した結果を確認するというサイクルを繰り返す必要があるためです。
BIやレポーティングは今でも必要な機能ですが、その役割はBAの一部となり結果を確認するモニタリングツールとして相互に補完する関係で使われているのが現状です。
――BIについて取材していると、蓄積されたデータを分析し、仮説を立て、それを検証することが重要ということでした。それはBAでも同様でしょうか。
BAにおいても、そういったモデルを構築して提唱、提案しています。たとえば価格体系や仕入れにおいて、来月や来期の需要がどのくらいになるか、そうすると材料をどのくらい仕入れるべきか、価格はどのくらいが適正になるのかといったことをBAによって判断していくわけです。
また、リスクの高い顧客に対して価格を上げるなどといった活用もできます。つまりは、モデルの中で状況を説明するということです。あらかじめ天候や景況などといった需要を喚起するような要素を必要に応じて組み合わせ、実際に需要が生まれる前に需要を仮定するのです。
BAでは“透明性”が重要
――2008年のリーマンショック以来、「New Normal(新たな常態)」という言葉がよく使われています。これは過去の経験が役に立たないという意味も含んでいますが、BAやBIは過去のデータを対象に分析します。そうした現状でBA、BIは実際に役立つのでしょうか。
BIやBAは、すでに企業の中で効果を上げていますし、事例も出ています。まずはBAモデルの中で推奨を仮定していきますが、大切なところは人間が意思を決定します。
リーマンショックは、いろいろなモデリングや情報データがあって、「これはすべきではない」という情報があったのに、上司が無視して強行した結果であるともいえます。モデリングやBAだけでは実際に問題を阻止することはできません。最終的な判断は人が下すので、幹部が理解しない、または理解しようとしないといった結果、問題が起きているのです。
こういった理由から、リーマンショック後は金融機関を統治する当局が銀行に対しストレステストを実施するように規制しました。「こういった問題が起きたらどうなるか、どう対処するか」などを銀行にテストさせるのです。
ストレステストで興味深いのは、実際に保有している資産や債権などがどういったものなのかを認識しないと、シナリオに当てはめることができないことです。実際に多くの金融機関では、自身の状況を十分に把握していないところが多くありました。そんな状況の中でのストレステストでしたから、驚くようなことがたくさんありました。
今後は、特にBAの世界では透明性がキーワードになるでしょう。実際にあるもの、今存在するものは何なのか、何が起こりうるか、どのように意思決定をするのかを明確にしていく必要があるのです。