“Big Data(ビッグデータ)”にはさまざまな意味が込められている。従来からある、桁数が決まった構造化データに加えて、画像や映像、音声などのリッチメディア、TwitterやFacebookなどのテキストを中心にした非構造化データなど、これらさまざまなものをまとめて表現する言葉がビッグデータと説明できる。しかし、ビッグデータにはもう一つ大きな側面がある。ファストデータだ。
たとえばRFIDやセンサが生成するデータは1秒間に数千から数万、時には数百万のオーダーであり、こうしたデータを処理するには、既存システムでは対応できないのだ。ファストデータという言葉にはそうした意味合いが込められている。このファストデータを処理するソフトウェアとして、この2~3年で注目を集めているのが複合イベント処理(Complex Event Processing:CEP)だ。
CEPが注目されているのは、ハードディスクドライブ(HDD)中心のシステムでは、ファストデータに対応できないという現実があるからだ。現在の一般的なデータ処理は、HDDにデータを貯めてから処理するという、いわば“ストック型”のデータ処理だ。反対に、データを貯めることなく処理しようとするのが“フロー型”である。このフロー型のデータ処理としてストリームデータ処理技術があり、この技術をベースにして、特定のルールに基づいてリアルタイムにデータを処理するというのがCEPである。
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CEPソフトウェアは、これまで主に金融分野で活用されてきている。たとえば、Sybaseのリアルタイムデータ分析アプリケーション「Sybase CEP」やCEPエンジン「Sybase Aleri Streaming Platform」は金融の分野で活用されている。だが、このCEPを金融以外の分野でも活用する動きが活発になってきている。
NTTデータは、橋梁に異常がないかどうかを検知するシステム「BRIMOS」でAleri Streaming Platformと高速データ分析基盤「Sybase RAP - The Trading Edition」を採用している。BRIMOSでは、約1万個ものセンサを想定した模擬実験で、毎秒数十万件というデータを処理できることが確認されている。
CEP市場では、日立製作所が「uCosminexus Stream Data Platform」を、日本IBMが「IBM InfoSphere Streams」を、日本オラクルが「Oracle Complex Event Processing(CEP)」を提供している。そしてSASも現在CEP製品を開発しているところだ。SASによると、もともとCEPを機能として製品に組み込んで提供していたが、市場の高まりを受けてCEPを製品として提供することを決めたという。
Oracle CEPは、もともとOracleに吸収されたBEA Systemsが開発していた製品であり、2005年から市場に投入されていたが、どちらかというと“ローテンション”であり、本腰を入れていたわけではなかった。だが、日本オラクルは7月28日に、Oracle CEPを中心にしたオンライン不正検知ソリューションを、コンサルティング企業のシグマクシスと共同で展開することを発表している。
Oracle CEPを中心にしたオンライン不正検知ソリューションは、金融機関やECサイト運営事業者を対象にしたものであり、オンライン取引情報をリアルタイムで分析して、不正取引を未然に防ぐことを狙っている。Oracle CEPと、シグマクシスが金融機関への導入で蓄積した、金融犯罪対策のノウハウを組み合わせることで、オンラインで不正を検知、処理して、実害発生の防止を目指している。
日本オラクルは、今回のソリューションの展開にあたって、専任のエンジニアやコンサルタント、サポート担当者を2倍に増員、総勢20人規模で対応することも明らかにしている。CEP市場に本腰を入れたのである。
日本オラクルでは、Oracle CEPをほかの分野に投入することも考えている。たとえば、空港内での人間の流量管理や緊急車両の動的配備、位置情報を利用したクーポン配信、証券業でのアルゴリズム取引基盤、位置情報を利用した営業行動管理など、CEPが対応できるありとあらゆる分野に投入しようとしている。
SASやSybase、日立製作所、日本IBMが競い合う市場に日本オラクルがどう食い込んでいくのか。CEP市場は今後ますます高まりを見せていくだろう。