2. 利用シーンから見るKVM
2-1. レッドハットの商用ディストリビューション「RHEV」
これまでLinuxの企業ニーズに応えてきたRed Hatから新たに提供されている仮想化用途の商用ディストリビューション「Red Hat Enterprise Virtualization(RHEV)」が、KVMの企業ユーザーでの利用を促進していくとみられます。主に企業における大規模なプライベートクラウド構築の現場での採用が増加するのではないでしょうか。
RHEVを構成するコンポーネントと提供される機能概要は以下のとおりです。
- Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor:
KVMをベースとした独立型のハイパーバイザーで、インテルアーキテクチャのサーバにインストールし、仮想化のホストOSとして利用します。 - Red Hat Enterprise Virtualization Manager for Servers:
仮想化環境のホストとゲストを管理/運用するための機能を提供するソフトウェアです。仮想マシンの動的移行(Live Migration)やHAクラスタ機能、ストレージ管理や負荷分散機能を提供しています。
2-2. IaaS基盤としてのクラウドOSの動向とKVM
クラウド技術の出現によって、企業が自社のシステムをどこに配置して運用させるかが多様化しています。すべてのコンピュータ機器を自社で調達して構築、運用するプライベートクラウド、もしくはクラウド環境を提供する事業者の環境を借用して構築、運用するプライベートクラウド(またはパブリッククラウド)と、選択肢は増えています。
いずれの場合も一定の堅牢性とスケーラビリティを兼ね備えたIaaS(Infrastructure as a Service)環境が必要であることに変わりはありません。IaaS環境構築の必須技術として挙げられるのが仮想化技術であり、昨今では仮想化技術をベースとしたクラウドOSに注目が集まっています。
クラウドOSが提供する主な機能は以下のとおりです。
- 構築作業の容易性:物理的なサーバやネットワークを構築することと比較して、劇的に短時間で新たな環境構築を実現
- 拡張性:提供するサービスが更に大きなコンピューターパワーを必要とする場合に、即時にリソースを拡張することを実現
- 高度な管理機能と自動化:運用状況を監視し、障害発生時や更に多くのリソースを必要としているサービスを検知し、自動的に拡張する機能を実現
- 信頼性:サービス、ネットワーク、ストレージの冗長構成の実現と障害発生時の自動フェイルオーバーで高い可用性を実現
クラウドOSは現在、多くの開発コミュニティまたは企業で開発されていますが、具体的には、以下のようなクラウドOSが注目を集めています。
- Eucalyptus:米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究プロジェクトとして開発
- OpenNebula:スペインの大学の学術プロジェクトから始まったソフトウェア。現在はEUからの支援を受けている
- CloudStack:米Cloud.comの製品のコア部分をOSS(オープンソースソフトウェア)配布したもの
- Nimbula:米Nimbulaが提供するクラウドOS
- OpenStack:OpenStackプロジェクトが開発、推進しているクラウドOS。元はNASAとRackspaceの技術をOSS化したもの
繰り返しになりますが、クラウドOSとしての機能を実現する上で、重要な技術が仮想化技術です。どの機能も仮想化技術を前提に提供しています。また多くのクラウドOSが複数の仮想化技術を採用する方向ですが、クラウドOSの重要な役割は、大規模かつ柔軟なスケーラビリティの提供ですので、OSSベースで高い堅牢性を提供するKVMは、今後は更に仮想化技術の中核をなしていくと推測されます。
次回以降、さらに踏み込んでクラウドOSを解説します。
山﨑靖之
サイオステクノロジー株式会社 執行役員 セールスコンサルティング担当
セールスコンサルティングを担当するかたわら、「The Open Group」の認定する「TOGAF8 Certified Individual」認証アーキテクトとしても活動している。
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