webOSは、HPが2010年4月に買収したPalmのOSであり、すでにwebOSを搭載したタブレット端末「HP TouchPad」や、スマートフォンの「Veer」および「Pre3」が、北米市場向けなどに発売されている。
HPは、UNIX OSとして独自のHP-UXを持っている。その点でも、webOSはHP-UX以来の独自OSであり、「外部へはライセンスを行わない」という強気の戦略を掲げていた。
同社が強気の姿勢をみせていた背景には、Windows PCで世界最大の市場シェアを誇り、プリンターでも世界ナンバーワンを維持している実績をベースに、PCおよびプリンターとの連動によってwebOSを広げることができると目論んでいた点が見逃せない。同社が年間出荷するPCやプリンターにwebOSを同時搭載するだけで年間1億台の出荷が可能だからだ。
そして、この出荷規模を背景に独自OSを普及させることで地盤を確立。Appleと同じように独自OSをベースにして、HPワールドを構築しようと考えていたわけだ。
実際、米本社幹部からも「HPの立場は、AcerやDellのようにPCハードウェアのシェアを追う立場と大きく異なり、Appleと同じプラットフォームをベースとしたビジネスモデルを志向することになる」とのコメントが聞かれていた。
しかし、webOSを搭載したHP TouchPadが不振であること、AppleのほかにもGoogleがAndroidで躍進していること、MicrosoftのWindows 8が来年にも投入される計画が明らかになり、HPはwebOSを武器にこの市場で事業を拡大するにはリスクが大きいと判断したようだ。
「これまではハードウェアのシェアを競ってきたが、これからはプラットフォーム上におけるシェア競争が始まることになる」と、webOSの事業拡大によってビジネスプランを大きく変えようと目論んでいたHPだが、今回の決断は、そこから180度舵を切った選択になるといえよう。
米HPのCEO、Leo Apotheker氏は2010年10月の就任。それ以前は、SAPのCEOを務めていた。SAP時代には18四半期連続でソフトウェア事業の売り上げを2桁成長させた実績などを持つ一方、サポート価格の引き上げによるユーザーからの反発、クラウド戦略の出遅れなどの失策を指摘する声もある。
HPでは今後、企業および官公庁向けに事業を集中させる考えであり、言い方を変えれば、SAPに20年以上勤務したApotheker氏が得意とする領域に事業を集中させるという見方もできよう。
収益性の悪いPC事業を切り捨て、企業向け事業へとシフトするのはIBMの姿とダブる。
Appleへの道筋を捨て、IBMへの道筋を選択したのが、今回のHPの決断というわけか。