求められるエンタープライズアーキテクチャの再定義

宮本認 (ガートナー ジャパン)

2011-09-01 11:12

ストーリーで考えるIT戦略の本質(3/5)

編集部より:ITコンサルタントである筆者の宮本認さんと情報システム部長は、スーパークールビズのファッションをどうやって着るかという話題から、IT戦略がいかにあるべきかを話し、会社にとってのITの位置付けや仮想敵をはっきりさせてきました。IT戦略をどうまとめていくのか?――コンサルティングは続きます。会話はすべてフィクションですが、実際のコンサルティング現場で行われている会話にかなり近いものです

共通化と標準化を行うものと行わないもの

「そういうことになりますよね。で、次です」

「“どこに着ていくか?”だったね。これは多分、業務の種類とアプリケーションの種類のことを言っているんでしょ?」

「流石! 一口にファッションといっても、いろいろな種類があります。部長が考えるファッションのシーンは、ビジネスカジュアルっていうシーンでしたね。このシーンというのは仰る通り業務ですね。ちょっと自分でも例えは悪いと思っていますが、部長の生活には、いろいろなシーンがあると思います。仕事に行く、家で寝る、体を鍛える、休日に家で寛ぐ、ちょっとお出掛けをする、奥さんと週末に買い物に行く。それぞれに異なるファッションをしていると思うんですが、どこは頑張ってどこは頑張らない。これを決める行為です」

「う~ん…ちょっと例えはピンと来ないけど。確かに営業周りもあればR&Dもある。生産管理もあれば調達もある。人事もあれば経理もある。いろいろな種類の業務があるけど、すでにERP(統合基幹業務システム)などがそろっている業務もあれば、まだまだこれから取り組まなければならないところもある」

「そうですよね。その中のどこを共通化するか。部長の場合、ジャケットと靴はいいものを持って使い回して、それ以外は独自にということでしたね」

「そうそう。ジャケットと靴が差し詰め営業ってことかな。この辺は部門や事業をまたいで、いろいろと共通にさせたいよね」

「流石! アプリケーションにしても、(工法を指している)アーキテクチャにしても、言うなれば“いかに共通化・標準化させていくか?”って方向に進んでいます。統合させようにも分散させようにも高速化させようにも、同じでないと統合できないし、違うものをバラバラにしてしまうと管理できないし、高速にしようとすると同じでないとなかなか速くならない。結局“同じで構わないものはどこか?”を整理することが大切なんです」

「そして、勝ちたいところは、業務のレベルも進化論で決まっているわけだな? それを適用させる範囲を定めるってことなんだね?」

「その通りです。これ、結局何かと言うと、エンタープライズアーキテクチャ(EA)を整理してほしいってことなんです。どの業務、どの事業に、どの共通システムをぶつけるか、どの標準システムをぶつけるか。残りは、個別のシステムになりますね。EAってのは、これだけじゃないんですけど、その重要なものはここで整理できると思います」

「あぁ、なるほど。宮本君、EAを文書体系として整理するっていう、一昔前の議論とはちょっと違うよ…ってことを言っているわけだね?」

「ご名答です。文書体系はそろっていた方がいいに決まっていますけれど、最近では、どちらかと言えば、複雑になったITを管理するための手法としてEAが活用されていますよね。海外企業でちゃんとしたところはほぼ例外なくやっています。SOA化とかするのも、EAがあるからこそできるんですよね」

「あぁそうか。モジュールとして整理するものが、どの業務、事業で使われるかをちゃんと整理しようってことか」

「そうなんです。同じなのか、ちょっと違うのか、まったく違うのか。これがわかっていないとできないですよね」

「そういうことだね」

何を従来通りの技術で動かして、何を新しい技術で作っていくか

「で、次です」

「“どこで買うか?”。まぁ“どのベンダーから調達するか?”って感じかな…。うん、なんかおかしくないか?」

「あ、部長、気づきました?」

「う~ん…何か、釈然としないんだよね。どの業務、どのアプリケーションを使うか。これはわかったけど、それだとなんかおかしくないかね? インフラの話はどこにいくの?」

「そうなんです。この例え、ここの完成度が低いんですよ。仰る通り、本来ならば、ここに“どういうインフラで動かすのか?”っていうものが入らないといけないんです」

「あら…もうちょっとで騙されるところだった」

「部長、そういう人聞きの悪い言い方はしないでくださいよ。自分でも、おかしいって思いながら喋っているんですから」

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