IT環境の整備を望む仮設住宅--IT業界はリーダーシップを示せるか

冨田秀継 (編集部)

2011-09-13 16:26

 「iPadもドコモもつながらないんです」

 東日本大震災から半年後の9月11日、ボランティアプロジェクト「ITで日本を元気に!」のメンバーとともに、宮城県南三陸町桝沢を訪ねた。冒頭の言葉は、桝沢地区の仮設住宅に住む佐々木道子さんが漏らしたものだ。

 佐々木さん宅のIT環境は、一見すると整備されているように思える。夫婦2人と3人の子どもたちが住む仮設住宅は3DK。子ども部屋には、日本HP製のノートPC、ネット接続用の無線通信機器、3G対応iPadがあった。いずれも各企業が直接、間接で無償提供したものだ。

 しかし、屋内では通信が非常に不安定だ。同プロジェクトの発起人代表でトライポッドワークス代表取締役社長の佐々木賢一氏は、「回線が不安定なのは仮設住宅が鉄板でできているからだろう」と言う。

 今回の訪問の目的はIT機器の提供だったが、道子さんに話を聞くと、佐々木さん宅ではWordが起動せずに困っているという。グーグルでシニアエンジニアリングマネージャーを務める及川卓也氏が、「じゃあ僕がやりましょう」と住宅に乗り込み、PCサポートを始めた。

 Wordが起動しないのはライセンス認証(プロダクトアクティベーション)を受けられなかったことが原因。ネット経由でアクティベーションしようとするが、窓際に通信機器を設置しても電波は非常に不安定だった。

 「その機械(通信用USB機器)を縦にすると電波が三本立つんです」と道子さん。及川さんが縦に持ち替えると、確かにアンテナは三本立つ。「子どもたちと同じことをしてる」と道子さんは笑った。

 及川氏は「3G回線を皆が取り合っている状況だろう。これでは通信が不安定になるのも分かる」と言う。

通信機器を縦に持って作業する及川卓也氏
通信機器を縦に持って作業する及川卓也氏

求められるエンターテインメント

 南三陸町桝沢地区の応急仮設住宅には、現在34世帯が入居している。道子さんの夫、正人さんは「そのうち、PCを必要としているのは18世帯です」と教えてくれた。PCもネットも必要とされている。道子さんに話を聞くと、その理由が分かった。

 「iPadで子どもたちに地図を見せるんです。家はここにあって、学校からはこうやって帰ってきてるのよ、と。『航空写真』っていうボタンを押すと、子どもたちは特に喜ぶんです」

 「子どもたちはYouTubeで動画も見ています。松岡修造さんのビデオが好きで、いつも笑いながら見ていますよ」

 仮のものとは言え、衣食住が整い、必要最低限の生活環境が整った。今、足りないのはエンターテインメントだ。

 「TSUTAYAも被災したのでDVDを借りれなくなったんです。テレビも同じような番組ばかりであまり見ないですし……」(道子さん)

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