2012年に可否が判断され早ければ2015年3月期にも強制適用が始まるとされていた国際会計基準(IFRS)。だが6月以降、事実上の適用延期が決まり、早くても2017年3月期から強制適用が始まるものと見込まれている。
この背景には、2015年という期限に対して「時間が短すぎる」という産業界からの意見があったためと言われている。産業界としては、会計情報を国際的に公開するIFRSそのものに反対しているのではないようだ。唐突とも言える、強制適用延期を主張した金融担当大臣の自見庄三郎氏も「IFRSに反対しているわけではない」と説明している。
こうしたことから、IFRS適用をどう進めればいいのか、頭を悩ませている企業にとって、現在の適用延期というのは猶予期間と受け止められている。多くの企業はIFRS適用がなくなるとは考えておらず、適用延期を肯定的にとらえている(適用延期になったことで、IFRS導入プロジェクトを中止した企業が存在するのもまた事実だが)。
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適用延期を肯定的にとらえる企業では、IFRS導入をきっかけに経営上の課題の解決にも取り組もうとしている。9月28日にTISが開いた会見で日本オラクルの桜本利幸氏(アプリケーション事業統括本部担当ディレクター)は日本CFO協会の調査に触れて、IFRS導入をきっかけに取り組みたい課題として「連結ガバナンスの強化」「P/L(損益計算書)からB/S(貸借対照表)などの経営管理の見直し」があるという実態を指摘している(図1)。
IFRSでは、企業単体ではなく、グループ全体で評価するのが根本だ。日本企業は海外の現地法人に対するガバナンスが緩く、現地法人任せにしているというのが伝統的だ。そうしたことからIFRS導入を契機に連結ガバナンスを強化したいという意欲を見せるのも当然の成り行きと言える。「IFRS導入が海外現地法人へのガバナンス強化の最後のきっかけ」と考える企業も多い。
P/LからB/Sなど経営管理を見直したいというのは、IFRSの基本を踏まえた考え方だ。P/Lつまり損益計算書は1年間でどれだけ売り上げたのか、どれだけ利益があったのかを示すのに対して、B/Sつまり貸借対照表はその企業がどれだけ資産を増やしたのかを評価するものだ。IFRSは、決算期ごとの資産を評価することが基本となっている。そのため、IFRSは時価評価が重要であり、時価で企業を評価するためにIFRSを批判する向きもある。
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この資産評価という点で、IFRS対応で企業を悩ませているのが固定資産の管理だ(図2)。工場の設備や機械などの固定資産の認識時期や取得時の測定は、日本とIFRSではほぼ同様といわれる。2010年4月から始まる会計年度から「資産除去債務」の報告が義務付けられる。資産除去債務は、法令や契約で除去が決められているものについて、撤去費用を事前に負債として計上するというものだ。
固定資産は、そのほとんどが年月を経ることで、その価値が下がっていく。たとえば機械が正しく活用され、その機械で製品を製造し続けられる年数にわたって、機械の購入価額を徐々に費用として認識する必要がある。ここで、機械が製品を製造し続けられる年数を“耐用年数”、機械の購入価額を徐々に費用として認識するのを“減価償却”という。
固定資産の減価償却は、日本基準(J-GAAP)とIFRSでは理論的な考え方はほぼ同様と見られている。だが、J-GAAPでは会計上も税法に基づく減価償却が実質的に認められているのに対して、IFRSの場合、税法に基づく減価償却はそれだけでは認められないという点で大きく異なる。
このため、IFRSを適用した際には、海外子会社を含め、会計用と税務用に二重の台帳を作成、維持する必要が出てくる可能性がある。固定資産の会計処理では、減価償却が大きな影響与えるだろうと見られている。
IFRSでの固定資産の取り扱い方が異なる点として「コンポーネントアカウンティング」も挙げられる。これは、固定資産を構成要素ごとに取得原価を分けて、それぞれに固有の残存価額や耐用年数、減価償却方法を適用するという考え方だ。
たとえば航空機を取得した際には、機体とエンジン、座席などに分けて会計処理する必要がある。また、大規模な検査や交換が予定されている資産は、本体部分と取り換える部分を分けて会計処理して、検査や交換する時点で取替資産の取得と除却の会計処理をするというものだ。