さて。Steve Jobsといえば、近年ではAppleを世界一の時価総額をもつ企業にまで育て上げた同氏の経営に関する実績に光があたることが多い気がする。無論、それはだれにも否定できない事実でもあり、あるいはまた「稀代のプレゼンの名手」であることも間違いないのだけれども、いっぽうで実は「人としての根っこの部分」に、「アーティストの血」とでも呼ぶべきものを持ち続けた人だったと、この十数年間、勝手にそんな想像をし続けている。
そのことに気づいたのは、たしか1998年に出たFortuneの特集記事を読んだ時だったと思う。しばらく前に自分のブログに、この記事についての手すさびの文章を上げていたのだけれど、そこでも言及しているとおり、Jobs氏は自分のお手本としてBob Dylanを挙げ、次のように述べていた。
One of my role models is Bob Dylan. As I grew up, I learned the lyrics to all his songs and watched him never stand still. If you look at the artists, if they get really good, it always occurs to them at some point that they can do this one thing for the rest of their lives, and they can be really successful to the outside world but not really be successful to themselves. That’s the moment that an artist really decides who he or she is. If they keep on risking failure, they’re still artists. Dylan and Picasso were always risking failure.
ボブ・ディランはわたしの「お手本」のひとりで……(彼のような)本物のアーティストなら、人生のある時点で「このまま同じひとつのことを繰り返しつづけても、残りの人生をやりすごせる」と必ず気付くはずなんだ。ただし、他人からはどれほど成功しているように見えても、同じことの繰り返しでは自分で「立派にやってる」とは思えない。アーティストの本当の価値が分かるのは、そういうことに気付いた時だ。失敗をおそれずに新しいことに挑戦していくなら、本当のアーティストだといえる。ディランもピカソも(失敗のリスクをおそれず)新しいことに挑戦し続けていた。
(これも余談になるが、Jobs氏はBob Dylanに憧れるあまり、彼の元恋人だったやはり有名なフォーク歌手のJoan Baezと親しい間柄になっていたのでは……という、ほんとうかどうか定かでない逸話もあると、むかし読んだ「Inside Steve's Brain」か「iCon: Steve Jobs」あたりの書物のなかで目にした覚えもある。いま英語のWikipediaの項目を観ても、"..reportes that Jobs once dated Joan Baez."という記述があるから、一部ではよく知られた話なのかも知れない)
なお、上記のインタビューも含む、FortuneのSteve Jobs特集記事17本をひとつにまとめた「All About Steve」というタイトルが、9月下旬に米Amazon.comでkindle bookとして出されている(きちんと日本語にしたものをどこかの版元さんが出してくれたらいいな、と思う)。