富士通、京ベースのスパコン「PRIMEHPC FX10」--“エクサ”クラスも構想中

大塚実

2011-11-08 12:33

 富士通は11月7日、京速コンピュータ「京(けい)」の技術をベースに開発した新型スーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」を発表、販売を開始した。16コアの新型プロセッサ「SPARC64 IXfx」を搭載しており、1ラック/2.5TFLOPSから1024ラック/23.2PFLOPSまでの構成が可能だという。販売目標は今後3年間で50システム。2012年1月より順次出荷が開始される予定だ。

 「京」は同社が理化学研究所と共同開発したスーパーコンピュータ。今年6月のTOP500ランキングでは、開発途中ながら8.162PFLOPSという性能を記録し、日本製のスパコンとしては「地球シミュレータ」以来となる世界最速の座に着いた。そして10月、今度はフルシステムで10.51PFLOPSを達成し、名実ともに京速(1京=10の16乗=10P)のコンピュータとなった。

  • 京速コンピュータ「京」の技術を適用した「PRIMEHPC FX10」

  • 10PFLOPS超えを果たした「京」。現在の世界最速スパコンだ

 「PRIMEHPC FX10」は、この「京」の技術を適用した商用スパコンであるが、プロセッサは8コアの「SPARC64 VIIIfx」から、16コアの「SPARC64 IXfx」に変更。最新世代のプロセッサを採用したことにより、計算ノード(1CPU)あたりの性能は、128GFLOPSから236.5GFLOPSへと大幅に向上した。製造プロセスは45nmから40nmに微細化が進んでいるが、コア数が倍増したことで消費電力は58Wから110Wに増えた。

  • システムボード1枚には4CPUを搭載。CPUとICCは水冷になっている

  • 「SPARC64 IXfx」のスペック。TSMCの40nmプロセスを採用している

  • 「PRIMEHPC FX10」のスペック。シングル/マルチラックで多少仕様が異なる

 「京」の実行効率(93.2%)の高さは、6次元メッシュ/トーラスアーキテクチャの「Tofu」インターコネクトによるところが大きい。FX10でもTofuは採用されており、高い実行効率が期待できる。さらに、LinuxベースのOSとHPCミドルウェア「Technical Computing Suite」なども引き続き搭載し、「京」とのソフトウェア互換性を確保した。FX10は「京」向けのプログラム開発にも最適だという。

 FX10のもう1つの特徴はシステムの安定性だ。「京」で10PFLOPS超えを記録したとき、8万個以上のCPUが約30時間も連続で動作した。京/FX10のプロセッサは、極端に消費電力が大きいわけでもないのに、冷却は水冷方式が採用されているが、これは「動作温度が10℃下がると故障率が半減する」(富士通 次世代テクニカルコンピューティング開発本部 本部長の追永勇次氏)ためだ。目指すのは「365日連続運用しても構わないようなシステム」(同)だ。

  • 「Tofu」インターコネクト。高速でスケーラブルなノード間通信が可能

  • 医療分野でのスパコン応用事例。心臓の詳細なシミュレーションで、心拍1回分の計算に従来は2年かかっていたところ、FX10なら1日で終わるという

  • もの作り分野での応用事例。試作をシミュレーションに置き換えることでコストを低減。同社が目指すのは「ものを作らないもの作り」だ

 FX10の価格は、最小構成のシングルラックモデルが5000万円程度から。マルチラックモデルについては個別見積もりとなるが、目安としては1PFLOPSあたり50〜70億円程度だという。

 同社はFX10を国内のみならず、世界に向けて売り込んでいく構え。同社の調査によれば、サーバ市場が伸び悩む中でも、HPCサーバに限れば年率7.6%の成長が期待でき、2015年には1兆円市場になるという。いまのシェアは2%程度とのことだが、ハイエンドにはFX10、ミッドレンジにはPCクラスタ、ローエンドにはクラウドを展開し、2015年にシェア10%の確保を目指す。

  • 世界のHPCサーバ市場は堅調な伸びが期待できる。2015年には1兆円市場に

  • 各分野に製品を投入。HPC市場の裾野を広げ、頂点を高くしていくという

 スパコンは従来、学術研究が先行していたが、性能がPFLOPSクラスになってきたことで、「大規模化・高速化して、現実社会での問題が解析可能になってきた。スパコンのシミュレーションは、国家や企業の競争力を左右する重要な技術」(富士通 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長の山田昌彦氏)なのだ。この重要性はますます高まると同社は見る。

  • スパコンの活用は、学術研究の段階から企業における実利用へ

  • 各国で高まるニーズを狙い、緑(日本+欧州)→黄色→ピンクの順番に展開する

 「京」で10PFLOPSを実現し、次はいよいよE(エクサ=1000P)FLOPSも視野に入ってくる。海外勢との競争は激しく、早ければ来年にも「京」を上回るスパコンが出てくる可能性があるが、同社も「EFLOPSレベルのコンピュータの実現に向けて準備を進めている」(富士通 執行役員副社長 佐相秀幸氏)という。

 まだ具体的な姿は見えてこないものの、追永氏は「部品点数を減らす必要があり、インターコネクトはプロセッサに内蔵されるだろう。プロセッサとインターコネクトのIP(知的財産)を両方持っているのは、競合の中でもIBMと富士通だけ。我々はエクサに一番近いところにいると思っている」、佐相氏は「SPARCはパブリックドメインなので、エクサに向けた拡張が容易にできる」と、それぞれ実現に自信を見せた。

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