富士通は11月7日、京速コンピュータ「京(けい)」の技術をベースに開発した新型スーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」を発表、販売を開始した。16コアの新型プロセッサ「SPARC64 IXfx」を搭載しており、1ラック/2.5TFLOPSから1024ラック/23.2PFLOPSまでの構成が可能だという。販売目標は今後3年間で50システム。2012年1月より順次出荷が開始される予定だ。
「京」は同社が理化学研究所と共同開発したスーパーコンピュータ。今年6月のTOP500ランキングでは、開発途中ながら8.162PFLOPSという性能を記録し、日本製のスパコンとしては「地球シミュレータ」以来となる世界最速の座に着いた。そして10月、今度はフルシステムで10.51PFLOPSを達成し、名実ともに京速(1京=10の16乗=10P)のコンピュータとなった。
「PRIMEHPC FX10」は、この「京」の技術を適用した商用スパコンであるが、プロセッサは8コアの「SPARC64 VIIIfx」から、16コアの「SPARC64 IXfx」に変更。最新世代のプロセッサを採用したことにより、計算ノード(1CPU)あたりの性能は、128GFLOPSから236.5GFLOPSへと大幅に向上した。製造プロセスは45nmから40nmに微細化が進んでいるが、コア数が倍増したことで消費電力は58Wから110Wに増えた。
「京」の実行効率(93.2%)の高さは、6次元メッシュ/トーラスアーキテクチャの「Tofu」インターコネクトによるところが大きい。FX10でもTofuは採用されており、高い実行効率が期待できる。さらに、LinuxベースのOSとHPCミドルウェア「Technical Computing Suite」なども引き続き搭載し、「京」とのソフトウェア互換性を確保した。FX10は「京」向けのプログラム開発にも最適だという。
FX10のもう1つの特徴はシステムの安定性だ。「京」で10PFLOPS超えを記録したとき、8万個以上のCPUが約30時間も連続で動作した。京/FX10のプロセッサは、極端に消費電力が大きいわけでもないのに、冷却は水冷方式が採用されているが、これは「動作温度が10℃下がると故障率が半減する」(富士通 次世代テクニカルコンピューティング開発本部 本部長の追永勇次氏)ためだ。目指すのは「365日連続運用しても構わないようなシステム」(同)だ。
FX10の価格は、最小構成のシングルラックモデルが5000万円程度から。マルチラックモデルについては個別見積もりとなるが、目安としては1PFLOPSあたり50〜70億円程度だという。
同社はFX10を国内のみならず、世界に向けて売り込んでいく構え。同社の調査によれば、サーバ市場が伸び悩む中でも、HPCサーバに限れば年率7.6%の成長が期待でき、2015年には1兆円市場になるという。いまのシェアは2%程度とのことだが、ハイエンドにはFX10、ミッドレンジにはPCクラスタ、ローエンドにはクラウドを展開し、2015年にシェア10%の確保を目指す。
スパコンは従来、学術研究が先行していたが、性能がPFLOPSクラスになってきたことで、「大規模化・高速化して、現実社会での問題が解析可能になってきた。スパコンのシミュレーションは、国家や企業の競争力を左右する重要な技術」(富士通 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長の山田昌彦氏)なのだ。この重要性はますます高まると同社は見る。
「京」で10PFLOPSを実現し、次はいよいよE(エクサ=1000P)FLOPSも視野に入ってくる。海外勢との競争は激しく、早ければ来年にも「京」を上回るスパコンが出てくる可能性があるが、同社も「EFLOPSレベルのコンピュータの実現に向けて準備を進めている」(富士通 執行役員副社長 佐相秀幸氏)という。
まだ具体的な姿は見えてこないものの、追永氏は「部品点数を減らす必要があり、インターコネクトはプロセッサに内蔵されるだろう。プロセッサとインターコネクトのIP(知的財産)を両方持っているのは、競合の中でもIBMと富士通だけ。我々はエクサに一番近いところにいると思っている」、佐相氏は「SPARCはパブリックドメインなので、エクサに向けた拡張が容易にできる」と、それぞれ実現に自信を見せた。