--東日本大震災以後、日本の企業が災害対策を重視し始めている。仮想化も緊急事態への備えとして捉えられるようになっている
人間というものは、悪いことはなるべく早く忘れたいと考える。また、一度災害などが起きると、もうしばらくはないだろうと思うようだ。仮想化やクラウドの技術は、より良いビジネスを実現させるためのものであり、さらにDRにも有用だというしなやかさがある。企業にとって災害対策は重要だが、単に事業継続計画(BCP)にだけ投資するというのは、いわば保険に加入するようなものであり、あまり積極的ではない企業が多かった。
しかし、仮想化やクラウドの技術を導入すれば、その企業の成長に貢献すると同時に、災害時にも迅速に対応できる。システムやデータなどはデータセンターにあり、どこでも業務を続けられる環境を整えることができるからだ。BCPだけに投資するのは、その効果がなかなか見え難いものだが、クラウドや仮想化に対する投資は、効果が非常にわかりやすいといえるだろう。
--仮想化技術は、企業にとって成長と安全の双方への鍵となるのか
銀行大手の英HSBCでは、3年ほど前にXenDesktopを導入した。同行は、ロンドンに大きな拠点ビルをもっているが、全体のキャパシティの60%しか使用していなかった。従業員の出張や休暇により、実際には常時40%は空いていたのだ。しかし、ある社員の席やパソコンなどを他の社員が使うわけにもいかず、社員の占有スペースは、その社員の不在時には遊休資産のようになっていた。
事業が進展するにつれ、その拠点はなんと「手狭」な状態になり、またひとつ別のビルを探さなければならなくなった。そこで、XenDesktopにより、ビル内のすべてのデスクトップをデータセンターに集約し、仮想デスクトップを使うようにした。どのオフィスの、どの端末、どのモニターでも、誰もが自分のデスクトップとして利用できるようになったため、物理マシンに縛られることがなくなり、このビルは稼働率が40%から120%にまで向上した。その結果、新たな不動産の取得は不要になり数百万ドル規模の節約になった。
XenDesktopを導入して一カ月の時点で、このビルのある地域は洪水に見舞われ、従業員の約半数は通勤ができなくなった。だが、在宅時でも自宅のパソコンを起動させれば普段のデスクトップを使用できるため、業務は一切中断されなかった。HSBCは、災害対策のためにXenDesktopに投資したわけではない。目的は、ビルの稼働率を向上させることだった。同行は導入初日から効果を実感することができた。そこにたまたま災害があり、さらにすばらしい効果があったわけだ。
クラウドの実力はもっと評価されるべきではないだろうか。企業はビジネスの大半をローカルで遂行するとしても、海外のデータセンターや外部クラウドとの接続性は十分に確保されていることが重要になる。万一の場合、大きな支えになるからだ。
--企業を取り巻く環境に限らず、世界的にさまざまな変動が起きている
IT業界にも大きな変化が起きており、大手ベンダーといえども、これまで通りではいられなくなっている。ただ、野心的、あるいは先見の明がある企業にとっては、変化はすばらしい好機となる。Microsoft、Intel、Cisco Systemsなども、当初は小さな企業だった。しかし、パソコンの時代が到来し、彼らはその波に上手く乗って巨大になった。いまでは、クラウドの時代がやってきており、同じようなことが起きるだろう。