世界は二極化し、コミュニケーションはクラウドに統合される:佐々木俊尚氏

小泉蔵人

2011-11-25 14:23

 日立製作所はこのほど、クラウドやミドルウェアに特化したプライベートイベント「Hitachi Open Middleware World Cloud Day」を開催した。基調講演にITジャーナリストの佐々木俊尚氏が登壇。クラウド化やソーシャルの普及、そしてグローバル化が既存のビジネスをどのように変化させるのかについて語った。

IT革命はまだ終わっていない

 「ソーシャルとクラウド化がもたらす日本社会の変化と今後のあり方」と題された基調講演で、佐々木氏は開口一番に「クラウド、ソーシャルメディア、グローバリゼーションはすべて連関しあっている。そして我々のビジネスを変えていく」と断言。「1990年代に使われた“IT革命”という言葉を最近は耳にしなくなった。しかし当時から言われてきた垂直統合から水平分業へという理念がいよいよ現実化している」と切り出した。

 現在では垂直・水平という言葉に代わり、「チャネルからレイヤへ」と言われている。企業が情報発信をする場合、広報がマスメディアを経由して発表するか、販促であればテレビCMや広告などの情報流通経路を使う。これらはいずれも「チャネル」である。従来はテレビ局・大手広告会社・スポンサー企業が無料番組とテレビCMをパッケージ化し、電波に乗せていた。

 「しかし今後はテレビの受像機自体が “Connected TV”や“Smart TV”へと進化することで、番組と広告は切り離され、視聴者の属性情報や行動履歴に基づいて、パーソナライズされた広告配信が行われるだろう」と佐々木氏は予測する。

アプリケーションプラットフォームがテレビ業界を変える

 2010年秋、鳴り物入りで登場したが消費者には受け入れられなかった製品のひとつに「Google TV」がある。佐々木氏はこの製品がアップデートされるという情報に注目していると言う。

 「Android MarketがGoogle TVに乗る。これはテレビがアプリケーションプラットフォームになることを意味している。番組はアプリケーションとして提供され、これまでチャンネルの切り替えが主体であったテレビ視聴スタイルを根本から変える方向性を向いている」

 情報機器のアプリケーションプラットフォーム化は初めてではない。1990年代に日本の各メーカーが競うようにして開発、発売していたワープロ専用機はPCという汎用機の登場で退場した。現在は携帯電話の世界でアプリケーションプラットフォームであるスマートフォンによる従来型の携帯電話の駆逐が進行している。

 「単機能機器はオープンなアプリケーションプラットフォームに置き替わる。この第3の変化がテレビで起こる。Google以外ではAppleがApp StoreとApple TVをリニューアルして参入するだろうと思う。スマートな端末によって広告配信の最適化が普及した場合、従来の番組と広告をパッケージにするビジネスモデルは継続できない」

既存チャネルを飲み込むソーシャルレイヤ

 テレビから視聴者は離れ、産業としては崩れ去ってしまうのだろうか。佐々木氏は、近年下落傾向にあった米国のテレビ視聴率が2010年から上昇に転じたという事例を紹介する。「理由ははっきりしないが、番組情報をTwitterやFacebookによって得て、その番組に関心を持った層がテレビを視聴している可能性が高い」

 佐々木氏は話題になっているテレビ番組がTwitter上でリアルタイムにわかるiPhoneアプリ「tuneTV」を紹介。「情報収集がアプリへと移行している。こうしたアプリを使いながらSNSの参加者同士で盛り上がっている。このアプリが売れることで、アプリ開発者とアプリの配信プラットフォームであるApp Storeを運営するAppleには収益になる。しかし、テレビ局の直接的な収入源にはならない」と言う。

垂直統合の解体は集金代金回収の仕組みにも

 一方、ケーブルテレビ(CATV)の多くは独自に課金の仕組みを持ち、料金を回収している。だが、この分野でもアプリケーションプラットフォームとしてのテレビに対してAmazonやPayPal、Facebook、Googleなどから決済ソリューションが提供される場合、CATV局が垂直統合していた番組(コンテンツ)の所有・配信・課金のビジネスモデルが解体され、グローバルプラットフォームに浸食されていく。

 「テレビ局は良質なコンテンツを制作し続けることで、これからも儲かるかもしれない。しかし垂直統合の頃に得られていたような予算は維持できないだろう」と佐々木氏は予測する。

取るべき策は「適応」

 垂直統合モデルの終焉はテレビなどのコンテンツ業界に限った出来事ではない。大型汎用機が主役だった頃のコンピュータ業界では、ハードディスクやマザーボード、メモリが正常に機能するようにマシンを構築できる技術とノウハウが必須だった。しかし1990年代後半にはパーツをそろえて組み立てれば、誰にでもPCが自作できるようになった。

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