プライスウォーターハウスクーパースが12月1日に発表した「役員報酬サーベイ2011」(PDF)によると、企業の役員報酬の水準が多くの役位で上昇しており、経済危機前の水準に回復しているという。社長で14.2%、全役位で5.9%と報酬総額が増加している。3月の東日本大震災を受けて、役員報酬について特別措置を取った企業は14%にとどまっているとしている。
2010年3月の改正内閣府令の施行で、企業の役員は報酬総額が1億円以上を得ている場合、その氏名と総額などを有価証券報告書に記載しなければならない。役員報酬の開示というのは、経営を託された役員がどのようにして報酬をもらっているのか、どういうポリシーのもとで報酬額が決まっているのかなど、企業統治(コーポレートガバナンス)という視点からの規制という意味合いがある。プライスウォーターハウスクーパースはその状況を2007年から毎年調査している。
今回の調査では、報酬ポリシーの項目や内容によって、策定や公開の状況に大きな差が生じているという。前回の調査結果と比較して、「水準設定プロセス」の策定と開示が進んでいるという。前回「明文化された方針は存在せず開示していない」が57%だったのに対して、今回は20%に減少。「方針を開示した」が前回の22%から今回は66%に増えている。
その一方で何に対して報酬を支払っているのか、どういう成果に対してどの程度支払うのかなどの根拠となる「報酬の目的」については相対的に策定と開示の対応が遅れているとしている。「明文化された方針は存在せず、開示していない」が前回は58%であり、今回は36%とそれほどの進展が見られない。前回23%となった「方針を開示した」も今回は40%と、進んでいるとは言えない状況にある。こうしたことから同社は、内閣府令での報酬ポリシーの開示要求に対応して、各企業での策定や開示、内容の詳細化が今後も段階的に進むと予想している。
今回の調査では、業績連動報酬や株式報酬といった変動報酬の導入比率は増加傾向にあり、業績連動性向上への取り組みが進展していると分析している。中長期インセンティブの中では、ストックオプションの導入比率が減少しているが、株式報酬型ストックオプションの導入比率が緩やかだが増加しているという。
株式市場が低迷を続ける中で、通常型のストックオプションが有効なインセンティブとして機能しづらいことから、株主との利害の共有、業績連動性を高める手段として、株式報酬型ストックオプションに着目する傾向があると分析している。
役員報酬ポリシーはコーポレートガバナンスの視点から求められる。ここで重要となるのが、統治機構の透明性や独立性がどのように変化しているかということだ。
今回の調査結果では、法律上報酬委員会の設置が義務付けられている委員会設置会社をのぞいた監査役(会)設置会社52社のうち、「報酬委員会を設置している」企業は37%となっている。このうち今年度に「設置した」のは11%という。
改正内閣府令によって有価証券報告書で報酬額やポリシーをより詳細に開示することを求められたため、従来は取締役会で意思決定した役員報酬決定プロセスに、さらに報酬委員会という任意の会議体を加えたことを示していると分析。報酬決定プロセスの透明性を高めようとする動きであると評価している。
回答企業のうち、社外取締役を選任する企業は75%で、前年度と比較して15%の増加。社外取締役の選任時に重視する基準には、「独立性」「経営者としての経験」を挙げる企業が多いとしている。社外取締役の選任義務化や要件厳格化の議論や要請が続けられているが、独立役員の選任についての企業側の意識が今後も高まると予想している。