非機能要求とは何か - (page 2)

五味明子

2011-12-07 16:48

 非機能要求グレード検討会は、システム基盤に対する非機能要求を大きく6つの項目に分けて設定している。

・可用性…システムサービスを継続的に利用可能とするための要求。「システムダウン時の復旧は3時間以内に」など
・性能/拡張性…システムの性能および将来のシステム拡張に関する要求。一般的な非機能要求の例では「レスポンスは3秒以内に」「将来に備えて現行の2倍の性能に拡張を」など
・運用/保守性…システムの運用と保守のサービスに関する要求。「業務時間中はシステム担当者が常駐」など
・移行性…現行システム資産の移行に関する要求。一般的な非機能要求の例では「移行後も現行の資産を引き続き利用したい」など
・セキュリティ…情報システムの安全性の確保に関する要求。「重要情報の情報漏えい対策を」など
・システム環境/エコロジー…システムの設置環境やエコロジーに関する要求。「データセンター内の温度は25度以下に」など

非機能要求グレード6大項目
非機能要求大項目説明要求の例実現方法の例
可用性システムサービスを継続的に利用可能とするための要求運用スケジュール(稼働時間・停止予定など)
障害、災害時における稼働目標
機器の冗長化やバックアップセンターの設置
復旧・回復方法および体制の確立
性能・拡張性システムの性能、および将来のシステム拡張に関する要求業務量および今後の増加見積り
システム化対象業務の特性(ピーク時、通常時、縮退時など)
性能目標値を意識したサイジング
将来へ向けた機器・ネットワークなどのサイズと配置=キャパシティ・プランニング
運用・保守性システムの運用と保守のサービスに関する要求運用中に求められるシステム稼働レベル
問題発生時の対応レベル
監視手段およびバックアップ方式の確立
問題発生時の役割分担、体制、訓練、マニュアルの整備
移行性現行システム資産の移行に関する要求 新システムへの移行期間および移行方法
移行対象資産の種類および移行量
移行スケジュール立案、移行ツール開発
移行体制の確立、移行リハーサルの実施
セキュリティ情報システムの安全性の確保に関する要求利用制限
不正アクセスの防止
アクセス制限、データの秘匿
不正の追跡、監視、検知
運用員などへの情報セキュリティ教育
システム環境・エコロジーシステムの設置環境やエコロジーに関する要求耐震/免震、重量/空間、温度/湿度、騒音など、システム環境に関する事項
CO2排出量や消費エネルギーなど、エコロジーに関する事項
規格や電気設備に合った機器の選別
環境負荷を低減させる構成

 機能要求と非機能要求において最も大きな違いは「発注側と受注側が共通認識を得やすいか」という点にある。たとえば上で挙げた「性能に関する要求」について、非機能要求の観点から見てみよう。ショッピングサイトで3秒以内のレスポンスを常に保ってほしいとの要求があったとする。だが、平常時と注文が殺到したビジーな状態、その両方で同じ性能を求めることは難しい。その落とし所を発注側と受注側で“同じ言葉”を使って定義するのは非常に困難な作業となる。発注側は非機能要求に関しては「できるだけ速く」「しっかりと防御」などあいまいな表現を使いがちで、受注側はその定量化/数値化や、性能とコストのバランスに悩むことになる。

 そこで非機能要求グレード検討会は、6つの大項目、さらにはそこから中項目、小項目、メトリクスと細分化させ、合計236のメトリクスからなる「非機能要求グレード」を2010年2月に完成させた。顧客の要求を「早期に、誤解なく、漏らさずに」確認するため、以下のような段階的なステップを推奨している。

  • 情報システムを「社会的影響がほとんどないシステム」「社会的影響が限定されるシステム」「社会的影響が極めて大きいシステム」の3つのモデルシステムに分類し、最も近いシステムを選択
  • 92項目から成る重要項目(コストに関わる項目)を定めたグレード表を用いて、モデルシステムごとに事前に推奨する要求レベルの値(0 - 5)を確認・調整
  • 重要項目以外の項目について、項目一覧表からレベルを選択

 6社で検討が重ねられた非機能要求グレードは現在、IPAに著作権が譲渡されており、普及と促進に向けた活動が引き続き行われている

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