IT部門は「ユースケース」から学べ−−シトリックスCMO - (page 2)

柴田克己

2011-12-09 12:01

−−シトリックスが近年掲げている「3つのクラウド」による企業ITのビジョンは、現在の環境から、かなりドラスティックな変化になるのではないかと思います。ITを使う企業が、このビジョンを理解してその方向へと進むには、長い時間が必要なのではないですか?

 「3つのクラウドの世界がいつ実現するか?」については、企業がいつそのコンセプトを採用するか、そしてシトリックスがどれだけ早く技術革新を実現できるかという点に依存します。

 PC(パーソナルコンピュータ)が世の中に出て約30年ほどたちました。しかし、PCが企業に使われるようになるまでには、5年から7年がかかりました。それは、PCを企業で導入し、管理し、活用するための仕組みを準備するのに、そのくらいの時間が必要だったためです。そして、10年をかけて、PCは企業ITのメインストリームになりました。

 PCからクラウドへの移行にも、恐らくそれと同じ理由で時間が必要になります。しかし、その時間を短縮する、以前にはなかった重要な要素があると思います。かつて、企業への新たなデバイスの導入を決めていたのはIT部門でした。しかし「コンシューマライゼーション」の流れの中で、新たなデバイスはIT部門を迂回して、企業内で使われるようになっています。例えば、先ほど触れたiPadは、わずか2年前には存在もしていなかったデバイスです。この短期間に、状況は大きく変化しました。今後、この時間は大幅に短縮されていくだろうと思います。

 パブリッククラウドの世界に目を向けてみましょう。例えば、Amazon EC2は、3年前にはホビイストが使っているものでした。しかし、現在では何十億ドル規模のビジネスへと成長しました。また、その位置づけも、新たなビジネスを開始しようとする企業にとって極めて重要なサービスへと変化しています。こうした変化は、非常に速いスピードで起こっています。ですから、かつてのように10年もかからず、その半分程度の期間で、企業は「クラウド」を中心としたコンピューティングの世界へ移行するでしょう。

 そこで出てくる問題もあります。シトリックスはIBMほどに大きな企業ではありません。シトリックスが、クラウド時代のIT基盤を提供する企業として、その急速な変化についていくためには、ソフトウェアの設計に関する、まったく違ったアプローチが必要になると考えています。

 従来のIT企業やソフトウェア企業は、世の中に新しい技術が生まれた場合、いったんその様子を見て、その技術が成功しそうだと分かってきたときに、それを採用したり、対応するように、後から動いてきました。一方で、いろんな動向が急激に展開され、将来どの技術が勝つのかが見えない状況では違うアプローチが必要になります。

 シトリックスにおける現在の技術的なブレイクスルーは、あるロールモデルから学んだものです。われわれは、顧客であるエンタープライズユーザーだけでなく、それ以外の動向にも目を向けています。現在では「企業が社会を変革する」というより「社会から企業が変革を強いられる」場合が多くなっているからです。

 そのようにして得たインスピレーションの例を挙げましょう。ユニバーサルクライアントであるCitrix Receiverでの取り組みです。3、4年ほど前、さまざまな新しいデバイスやアプリケーションが登場するのを目の当たりにし、われわれは従来どおりの「様子見」では、変化の速度に追いつけないと感じました。そこで、コンシューマーにサービスを提供することに特化した産業や企業から学ぼうと考えたのです。

 Receiverのインスピレーションは、放送メディアのサービスから得ています。衛星放送やケーブルテレビといったサービスに消費者が加入する際には、テレビのメーカーやハードウェア構成、どの場所にテレビがあるかといったことは気にする必要がありません。受信するアンテナやセットトップボックスさえ用意すれば、すぐに望むサービスを受けることができます。それと同様に、ビジネスで利用されるIT環境においても、あらゆるデバイスやロケーションから、アプリケーションやデータに快適に接続できることが必要だと考えました。Receiverでは、デバイス側でその環境を実現しました。

 次に、Receiverで培った技術を、デバイスとプライベートクラウドとの接点、プライベートクラウドとパブリッククラウドとの接点に活用することを目指して、CloudBridge、CloudGatewayといった製品に取り組みました。この「接点」の両端に存在するサービスが、どのベンダーや技術に依るものでも容易につなぐことができるという点を、われわれのコアコンピテンシーにしようと考えたのです。

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