アップルのスティーブ・ジョブズは、新製品の設計にあたり調査やフォーカス・グループにあまり価値を置かないことで知られている。この一見実証主義の逆をいくような行動をどのように説明すればよいのか。
1つの説明として、創造力に富んだ科学者と同様、Jobsのような人々は、データが十分でない、また適切でない場合は理論を引き出すことができないことを認識している。また、消費者の経験や行動を変えるような全くの新しい製品を市場に出す際に役立つ唯一のデータは、実証データであり、つまりその製品を使ったことのない人の意見や反応ではないことを知っているのだ。
ジョブズに代表される人と科学者には相通ずるところがある。両者とも理論を裏付ける(この場合は、製品が成功するかどうか)にはどのようなデータが必要かを認識している。またそのようなデータはフォーカス・グループのような限られた手段では集めることができないので斬新な方法(製品を市場に出し経験的データを集める)を編み出して必要なデータを取りに行くという共通点を持つ。
失敗に終わり市場から退場する製品――アップルの場合であればニュートン――もあることを留意する必要がある。直感、大胆な発想、新しい考え方は経験主義と両立しないわけではない。これらの価値については未来の企業によって理解がさらに進むであろう。これは理論科学が先行し実験科学がその後を追いかける関係に似ている。
実証主義に基づきアナリティクスを活用して意思決定を行う未来の企業は現在の企業とは大きく異なるものになろう。読者は当然次の質問をするであろう。「かく言うあなたはそれが現実になると思っているのか、それともそうなると知っているのか」と。
一本とられました。
本稿はアクセンチュア広報誌「アウトルック」日本語版 (2011年6月号)の転載です(ZDNet Japan編集部)
Kishore S. Swaminathan(キショール・S・スワミナタン)
アクセンチュアのチーフサイエンティストであり、アクセンチュア・テクノロジー・ラボのシステム・インテグレーション・リサーチのグローバルディレクターである。同氏は、テクノロジーの将来に対するアクセンチュアのビジョンの定義や調査研究課題の設定を担当している。アクセンチュア入社以来、最先端技術の調査を専門としてきた。ITの最も優秀な活用で2000コンピューターワールド・スミソニアン・アワードを受賞し、これまでに数十に及ぶ研究プロジェクトに取り組み、その成果に対し多くの特許を取っている。同氏は北京を拠点として活動している。
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