人に「何となく押し切られない」ための5つのマインドハック - (page 3)

高橋美津

2012-01-11 09:00

「ギブ&テイク」のワナ

 「人に何かしてもらったら、それにお返しをする」というのは、社会生活における比較的基本的なルールです。そして、基本的だからこそ、そのルールにのっとって自動的に行動してしまう傾向も強くなります。

 たとえば、こんな経験はありませんか?量販店などで、ちょっと大きな買い物をするとき。店員さんに詳しく商品説明をしてもらい、値段交渉に入ります。ある程度、交渉にもメドがつき「あと一声!」という段階に入ったところで、その店員さんが「うーん……。分かりました。お客様のためにも、私はぜひその値段でお売りしたい。ただ、私だけでは決められません。上司と交渉して参りますので、しばらくお待ちください」といってバックヤードに入っていきます。数分の後、バックヤードから出てきた店員さんは、ちょっと残念そうな顔をしています。

「すみません。私もがんばったのですが、やはり、お客様のおっしゃる値段では難しく……。こちらのお値段で手を打ってはいただけないでしょうか?」

 ここで買い手であるあなたはこう考えるかもしれません。この店員さんは、私の求めに応じて、いろいろな商品の特徴を親切に説明して「くれた」。そして、私が提示した価格を受け入れてもらうために、自分の上司とかけあって「くれた」。であれば、ここまでの厚意に「報いるためにも」、店員が提示するこの値段で買ってもいいのではないか、と。

 もし、そのように考えるとすれば、そこに「ギブ&テイク(返報性)」のワナが働いています。重要なのは、店員さんのこれまでの行動は、支払うお金と引き替えに手に入る商品の価値とはまったく無関係だという点です。考えるべきは「この金額を支払うことで手に入る価値は、それに十分に見合うものか?」ということだけです。「上司と交渉してくる」といってバックヤードに入った店員さんが、実はトイレに行って帰ってきただけだったと考えれば、より冷静に判断ができるはず……というのは、ちょっと人が悪いでしょうか。

 このルールには、さまざまなバリエーションがあります。例えば、このケースではどうでしょう。

 あなたが上司から「今週、土日に休日出勤してくれない?」と頼まれるとします。突然の休日出勤命令ほど、気の滅入るものはありません。恐らくあなたは断ろうとするでしょう。しかし、まず最初に「これから1カ月間、毎週土日に休日出勤してくれない?」と聞かれたとします。もちろん、あなたは即座に「冗談じゃない!」と断ります。すると少し悲しい顔をしながら、上司はこう言います。「……そうかぁ、困ったなぁ。わかった! じゃ、ほかの週は別の人に頼むように調整するから、今週の週末だけ、お願いできないかな?」

 実際に、その要請を受けるかどうかは別として、前者より後者の頼み方のほうが「承諾」への圧力が強い感じがしませんか? これは「ドア・イン・ザ・フェイス」と呼ばれる有名なテクニックで、最初に法外な依頼をして、相手に一度断らせた後、本来の目的だった依頼をすることで、受け入れへの抵抗を小さくするというものです。「相手が譲歩した」ことに対する返報性のルールと合わせて、最初の依頼(フェイク)と次の依頼(本命)の対比を大きくすることで、本命の依頼が「たいしたことのないもの」のように思わせる効果も狙っています。

 普段の生活の中では、このギブ&テイクのルールに従って行動するほうが、人間関係が円滑に運ぶことも多いでしょう。しかし、このルールを意識的に悪用し「ワナ」として利用しようとする人がいるということも覚えておくべきです。そうした相手に対するときには、「この“恩返し”は、相手のどのような行為に対するものであり、それは自分がこれからやろうとしていることに見合うものか」ということを意識するようにしましょう。

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