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人に「何となく押し切られない」ための5つのマインドハック - (page 5)

高橋美津

2012-01-11 09:00

「権威」のワナ

 何かの行動や判断をする際、その分野の「権威」と言われている人の意見を参考にするのはよくあることです。自分よりも「多くの知識や経験を持っている」と広く認められている人物の意見を、自分自身が行う判断よりも「より正しい」ものとして決定の材料にするのは、社会生活の多くの場面で正しく機能するやり方です。

 しかし、正しく機能することが多いがゆえに、人はいわゆる「権威」によって与えられた命令や指示に、反射的に従ってしまうという傾向も強く持っています。多くの場合、それは「自分自身の意思」よりも優先順位の高い原則となり得ます。

 この「権威」のワナについては、1970年代の米国でかなり恐ろしい実験が実際に行われています。実験の登場人物は「心理学の教師」とその「生徒」、そしてこの教師と生徒の指示によって実験に参加する「被験者」の3人です。

 被験者は「罰を与えることが、学習と記憶におよぼす影響についての実験」を行うと聞かされて研究室にやってきます。被験者は、実験室で記憶力に関する1時間程度のテストを受けるのですが、彼の体には回答を間違えた場合に電気ショックを与えるための電極が装着されます。教師はこの実験全体の指揮をとっており、実際のオペレーションは、教師の指示で生徒が行います。

 実験が開始され、被験者は問題に答えはじめます。回答を間違えた場合、教師は電気ショックを与えるよう、生徒に指示を出します。誤答による電気ショックの強さは、徐々に増加していくように決められています。最初のうちは耐えられる程度のショックですが、誤答が続くうちに徐々に電圧は高められていき、被験者は実験室の中で「苦しい! もうやめてくれ!」と教師と生徒に向かって叫びます。しかし、テストは続けられ、生徒は教師の指示通りに電圧を上げながら電気ショックを与え続けます。電圧は最終段階である300ボルトに近づいていきます。最後には電気ショックの痛みに耐えかねた被験者の絶叫が室内に響き渡り……。

 想像するだに恐ろしい実験ですが、この実験の「本当の被験者」は、実は教師に命令されて被験者に電気ショックを与える「生徒」なのです。実験の本当の目的は、教師という権威のある人物の命令に対して、生徒がどこまで「服従」するかを調べることでした。もちろん、実際には誤答した被験者に電気ショックは与えられていませんでした。

 さてこの実験の結果なのですが、(偽の)被験者の「やめてくれ」という懇願や苦痛の叫びにもかかわらず、実に全体の3分の2の「生徒」が、最高電圧である300ボルトの電気ショックを、教師の命令に従って被験者に与えたそうです。ちょっとゾッとする結果ですね。

 この実験が示唆するのは、人の持つ「服従」への傾向の強さです。上司に言われて不正を働いた会社員のニュースを見て、多くの人は「自分なら、いくら上司に命令されたところで、法や人の道に反するようなことはしない」と感じると思うのですが、万が一、実際に自分がその立場になったとしたら、予想以上の心理的な葛藤があるだろうことは知っておいて損はありません。

 また、この「権威」への服従の傾向は、実際の権威だけでなく、権威の目印としての「服装」「装飾品」そして「肩書き」などにも反応してしまうことが知られています。実際には権威がないにもかかわらず、これらの周辺情報をまとって権威を演出している人の意見や判断に従うことが危険であるのは明白でしょう。

 権威づけされた命令や意見が、自分の中で「違和感」をおぼえる場合には、その違和感の原因について考えることを放棄してはいけません。まず最初に確認すべきは、「その権威は本物なのだろうか」ということ。次に「その権威ある人の持っている知識や経験は、自分が判断しようとしている問題に直接関連するものなのか」ということです。大切なのは、権威に盲目的に従うのではなく、彼が持っている知識と経験を、自分が正しい判断をするために利用するのだという意識を、常に持っておくことでしょう。

おわりに - 傾向を意識しておこう

 この記事で紹介した5つのワナは、本来であれば「何かを判断したり、決定したりするときに、精神的なリソースの消費量を減らし、判断までの時間を短縮するため」に有効なものです。実際に、人は生活の多くの場面で、これらの手段を利用して判断を下し、自らの行動を決定しており、それでうまくいっています。

 問題は、こうした手段に依存しすぎたり、これらの手段を(意識、無意識にかかわらず)悪用して、自分の立場や利益を確保しようとする相手と直面したときです。これらの傾向を心のどこかで意識しておくことで、「何となく押し切られ」てしまい、後で「失敗した」と後悔するケースは、多少なりとも減らせるのではないでしょうか。

 なお、この記事で紹介したそれぞれの心理的傾向については『影響力の武器』(誠信書房刊、Robert B. Cialdini著、社会行動研究会訳)、「権威」のワナで紹介した実験については『服従の心理』(河出書房新社刊、Stanley Milgram著、山形浩生訳)という書籍の中で、より詳しく紹介されています。興味をもたれた方は、ぜひそちらもご覧になってください。

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