アップルに「ノブレス・オブリージュ」を求めるNYTimes
NYTimes特集記事の具体的な中身やそれに端を発する動きについては、すでにCNET Japanで比較的詳しく紹介されているので、ぜひそちらをご覧いただきたいと思う(膨大な情報量の話を十全にカバーすることは筆者の手にあまるというのが主な理由だが、それ以外にも本稿の趣旨が別のところにあり、個別具体的な事柄に立ち入ってしまうと結局「木をみて森を見落とす」ことになりかねないとの懸念があるからでもある)。
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故スティーブ・ジョブズがオバマ大統領に対して「いちど国外に流れ出てしまった雇用はもう戻ってこない」という理由を列挙し、その上で読者に向かって「あなたがいま手にしているそのiPhoneやiPadの向こう側に、過酷な労働環境下で働き続ける何十万人もの人間がいる」と書いてみせたNYTimesの狙い。そして、事前のiPhoneの売行予測などから、アップルがかなりの好決算を発表することを相当な確度で予測できたNYTimesが、あのタイミングで2つの記事を掲載することでねらった効果。
それを一言でいうとすれば、おそらく「特別な会社になったアップル」に対して、これまでとは異なる「それに相応しい高い基準と、そして負担とが求められてしかるべき」という認識を読者に植え付けることではなかったか。これは、ノブレス・オブリージュ("Noblesse Oblige")の押しつけといえなくもない。
無論これも複数の公開情報を手がかりにした筆者の憶測に過ぎないわけだが、それでも次のような発言をみると、NYTimesのこの報道がうまくねらった通りの効果を発揮したかにも思える。
アップルは石油メジャーなみの売上をあげる世界で唯一の消費者向け家電製品メーカーである。同社はわずか1四半期で130億ドルもの純利益をあげ、全体では463.3億ドルもの製品やサービスを販売した。…アップルはいま『道義的に正しいことをする』のに、かつてないほどいい立ち場にあると私は個人的にそう確信している。
これは米CNETのポッドキャスト「Buzz Out Loud」などを担当するMolly Woodが1月27日付けで公開したコラムからの抜粋だが、NYTimesの記事を目にした一部の「読者の反応」を端的に示したものと私は思う(註4)
こうした見方の前では、NYTimes記事中にある匿名のアップル現役幹部のコメント——「われわれは現在100カ国以上でiPhoneを販売している。(略)そんなわれわれに、米国の抱える問題を解決する義務はない。われわれに課せられた義務は、可能なかぎり良い製品をつくっていくことだけ」という考えなどは、もはや説得力を失ってしまう。「どちらが正しいか」といった議論は水掛け論に終始し、冷静な見解もノブレス・オブリージュの遂行を求める声の前で、得てして「不寛容」などといったネガティブなレッテルを貼られかねない。
註4:Molly Woodのコラム
"… Apple is the only consumer-electronics manufacturer in the world pulling in oil-company caliber revenues. Think about it: Apple just announced $13 billion in pure profit in a single quarter. In total, they sold $46.33 billion in goods and services... Personally, I believe Apple has never been in a better position to do the right thing."