幹部のなかの3人——ピーター・オッペンハイマーCFO(最高財務責任者)、法務担当のブルース・シーウェルSVP、クックCEOの後釜としてオペレーションを担当するジェル・ウィリアムズSVPは、いずれも「裏方の仕事」を担う面々である。
さらに、ジョブズが無二の朋輩として敬意を払い、特別目をかけていたとされるデザイン部門の責任者 ジョニー・アイブ氏は社内でも相当な影響力を持つとされるが、どちらかというと職人肌の人物で、デザインコミュニティなどでの講演以外はほとんど公の場に出ないというのもよく知られたところ。
また、主に「対外的な交渉役」「トラブルシューター」的な役回りを引き受けて実績を積んできたとされるエディー・キューSVP(iTunesなど主にオンラインの取り組みを統括)は、「最高の製品作り」「最高のユーザーエクスペリエンスの提供」をもっとも重視するジョブズの下ではなかなか評価されず、クック氏への「政権交代」後はじめてSVPに列せられたという苦労人。ボブ・マンスフィールド氏(ハードウェア担当SVP)にしても、最高幹部のなかではもっとも社歴が短く、ソフトウェアドリブンの傾向が強いアップルのなかにあってはどうしてもサポート役という印象を免れない(この人も近年では新製品のプロモーションビデオにたびたび顔を出すようになっているが、「タフ」「ソリッド」といったイメージが強いいっぽう、聴衆をわっと沸かせるようなキャラクターとは縁遠い印象を受ける)。
そうやって消去法で「華のある役者」、もしくはそうした役回りを「期待されて然るべき」立ち場の人物を探していくと、残りは3人ということになる。
ところで。
Fortuneのラシンスキー氏は、「企業が利益を出し続けるために必要なことは二つしかない。売上を伸ばすか、コストを下げるかだ。そして、アップルがこれほどの存在になれたのは、このふたつを同時に、しかも他に例がないほどうまくやれたから」と著作に記している。ジョブズの下で、この売上の増加(マーケティング)を仕切ってきたシラー氏と、コストの削減(オペレーション)を仕切ってきたクック氏が候補に残るのはほぼ順当に思える。
それと同時に、もうひとりの候補者としてよくもわるくもフォーストル氏に注目があつまるのは、ひとえにiOSの成功——すなわち同氏が影響力を行使できる範囲の大きさによるものである。
iPhoneとiPadの売上が全体に占める割合は、すでに3分の2以上に達している(463.3億ドルのうちの335.7億ドル=iPhone 244.2億ドル+iPad 91.5億ドル:2011年10-12月期)。さらに、先ごろ開発者向けプレビュー版がリリースされた次期OS X「Mountain Lion」では、もともとiOS端末向けに開発されたアプリや機能が多数盛り込まれていることを考え合わせると、フォーストル氏の影響力の範囲はさらに拡大するとみてほぼ間違いなさそうだ。
そんなフォーストル氏のことを、かつての同僚で、やはりジョブズ直属の部下として働いていたアンディ・ミラー氏は「アップル社内で、だれよりもスティーブ(ジョブズ)に似ていた」("He was as close to Steve as anybody at the company")「彼が何かいえば、人が耳を傾ける」("When he says stuff, people listen.")と評している。
また、マイク・リー氏という元アップル社員のソフトウェアエンジニアは、「スコットのことを『アップルでいちばんの馬鹿野郎』("Apple's chief a-hole")と呼んでいたことがあったが、ただしこれはお世辞のつもりでそういっていたもの。同じことはスティーブ・ジョブズにもあてはまっていたのだから」と賞賛とも批判ともつかないコメントをしている。