iPhoneが売れない国、iPhoneを売れない国 - (page 4)

三国大洋

2012-03-05 14:14

「一筋縄ではいくはずがない」とティム・クックCEO

 さて。

 2月下旬の「Mobile World Congress 2012」(スペイン・バルセロナ)の開催を前に、チップメーカーのクアルコムが第5世代の「Gobi」のリファレンスプラットフォーム(「MDM9615」「MDM9215」)を発表した(註4)。

 このクアルコムの新チップセットは、3GのHSPA+やCDMAに加え、4G(3.9G)のLTEについてもFDD-LTEとTD-LTEの両方式に対応、さらに中国独自の3G「TD-SCDMA」のネットワークまで対応するとあって、一部のブログなどでははやくも「iPhoneの次期モデルは、これを搭載した『ワールドフォン』になる」といった話が盛り上がっていた(アップルはiPhone 4Sからすでにクアルコム製無線チップに切り替えている)。

 いっぽうアップル株に関心のある投資家の間では、「これでチャイナ・モバイル(中国移動、中国最大の携帯キャリア)がiPhoneの取り扱いをはじめるのも時間の問題になった」という期待が高まっている(註5)。

 この少し後に、米投資銀行のゴールドマン・サックスが主催したカンファレンスで講演したアップルのティム・クックCEOは、参加者との質疑応答のなかで「新興国の市場向けに低価格の端末を用意する必要があるのでは」という質問に対し、「必ずしもそうとはいえない」という自身の考えを示していた。

 「いまプリペイド加入者が市場の主流だからといって、『いつまでもそのままの状態が続く』という考えには与しない」というクックCEOは、そうした自分の考えを裏付ける材料として、中国で最初にiPhoneを正式に取り扱ったチャイナ・ユニコムでポストペイド方式の長期契約を条件とする助成金有りの提供がうまくいっていることを挙げていた(註6)。

 さらに、クックCEOはこのあと、次のように述べたという。

 「われわれは、世界の国のひとつひとつについて詳しい情報を集めている。将来もっとうまくやっていくために、何に適応できるかを学ぼうとしている」(註7)

 たとえ技術的な条件が整い「ワールドフォン」を実現できたとしても、あるいはいまよりリーズナブルな価格の端末を用意できたとしても、それですぐさま世界中の市場に「売れる商品」を持ち込めるということにはならない。

 先に触れたギリシャやアルゼンチンの話は、そのことを示す実例といえよう。

 そんな「一筋縄ではいかない」世界を相手にした経営者の認識の重みといったものを、ティム・クックCEOのこの発言の背後に感じとった次第である。


註5:中国移動はiPhoneの取り扱いを始めるのか

Qualcomm Paves the Way for an Apple-China Mobile iPhone Deal - Trefis(有料)


註6:ティム・クックCEOが語る中国でのiPhoneビジネス

At an investor conference this month, Mr.Cook added that emerging markets, which often use the prepaid model, are "critical" for the company, but that each country is different and some may evolve over time. "I don't really subscribe to the premise that a prepaid market is a prepaid market is a prepaid market," he said. Apple, he said, had persuaded China Unicom to try a contract and subsidies approach in addition to its prepaid one, and that it had performed well.


註7:ティム・クックCEO「何に適応できるか学ぼうとしている」

"You can bet that we were into details in every single country in the world trying to learn what we can to adjust, maybe to do better into the future," Mr. Cook said.

関連記事:

Keep up with ZDNet Japan
ZDNet JapanはFacebookページTwitterRSSNewsletter(メールマガジン)でも情報を配信しています。現在閲覧中の記事は、画面下部の「Meebo Bar」を通じてソーシャルメディアで共有できます。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. 運用管理

    データベース管理の課題を一挙に解決!効率化と柔軟性を両立する新しいアプローチとは

  2. セキュリティ

    セキュリティに対する意識や対策状況の違いが浮き彫り--日米豪における情報セキュリティの実態を調査

  3. セキュリティ

    マンガで解説!情シスが悩む「Microsoft 365/Copilot」の有効活用に役立つ支援策

  4. セキュリティ

    セキュアな業務環境を実現する新標準「Chrome Enterprise Premium」活用ガイド

  5. ビジネスアプリケーション

    AIエージェントの課題に対応、生成AIの活用を推進するための5つのデータガバナンス戦略

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]