さらに、こうしたミクロの事例と合わせて、マクロの流れの変化を示した3つのチャートも提示されている。「中国の工員の人件費上昇」「輸送費の上昇」「ロボット(オートメーション)の費用低下」の3つだ。
このうち人件費(平均時給)については、2002年の60セント弱から2008年には1ドル30セント強まで増加、リーマンショック後に急落した輸送費も2010年1月に底を打った後ふたたび急上昇に転じ、2011年1月には2年前の水準を上回るところまで増加、そして自動工作機械をつかった製造コストは1990年から2005年の15年間に約5分の1に低下したことが示されている。(3つのチャートは「Made in America: Small Businesses Buck the Offshoring Trend」を参照)
このほか、「中国での外注先による生産が割に合わなくなった」ことを例証する材料として、経営コンサルティング会社のマッキンゼーが2008年に行ったミッドレンジサーバの製造コスト分析の結果も紹介されている。この調査分析によると、2003年に1台あたり推定64ドルの節約につながっていた中国での組み立ても、その後の人件費や輸送費の上昇などで、2008年には逆に16ドルも割高になっているという。
この記事全体から浮かびあがってくるのは、中国へのアウトソーシングが単に「割りに合わない」だけでなく、「もはやアップルなど一部の大企業に許された贅沢になりつつある」ということかもしれない。同記事中ではそのことを示唆する企業経営者の次のようなコメントが紹介されている。
「アップルのような巨大企業なら、自社のために工場全体を動かすこともできよう。大企業なら自社で定めた製造プロセスで製品をつくらせ、品質をコントロールすることも可能だ。しかしそうした力のない企業は単なる顧客のなかの1社に過ぎず、中国のアウトソース先が気にしてくれることもない」(註9)
なお、この記事では長期的な視点から一部製品を国内製造に切り替えた例として、NCRやゼネラル・エレクトリック(GE)といった大企業の例も出ている。ただし、これらの工場から生まれてくる製品——NCRはATM、GEは「環境に優しい」冷蔵庫や温水器——がどれほど付加価値の高いものかはわからない。
そして、オバマ大統領が一般教書演説のなかで言及していた「新世代のハイテク製造業や他の高賃金の仕事」("An America that attracts a new generation of high-tech manufacturing and high-paying jobs.")を多数つくり出すには、米国内の製造ラインからより付加価値の高い製品が生み出されてくる必要がある。
さて、ここで紙幅が尽きてしまった。次回は残りの2つ、「輸送費の上昇」「ロボット(オートメーション)の費用低下」を検討したい。
註9:アップルは配慮されるが、ほとんどの企業は多くの顧客のなかの1社に過ぎない
"If you're a huge company like Apple, you can get the whole factory to work for you," says Paul King, founder of Hercules Networks, a New York company that makes charging kiosks for mobile devices. "You can put your own process in place, you can have your own quality control. But without that kind of power, you're just another customer, and they don't really care."
"Made in America: Small Businesses Buck the Offshoring Trend"