過熱するアップル株への期待と不安 - (page 2)

三国大洋

2012-03-19 15:12

「今度こそ」の期待が「今回も」空振りに——2月の株主総会

 アップルは故スティーブ・ジョブズの復帰後、一度も株主への配当を実施していない。つまり、これまでずっと株価の値上がりを通じたキャピタルゲインだけで株主・投資家を満足させてきたということになる。

 それでも1月24日の2011年10〜12月期決算の発表を受けて、その直後から「アップルもいよいよ配当実施か」という希望的観測が投資家の間で高まっていた印象があった。

 次に挙げるのはそうした声を盛り込んだ記事の例である。

 こうした配当への期待の高まりの背景には、主に2つの理由ーーティム・クックCEOの就任と、決算発表で手元の現金がさらに積み上がったことが明らかになったことがあった。

 Fortune誌のアダム・ラシンスキー記者は書籍「Inside Apple」のなかで、「1997年当時、手元資金があと半年程度しかないという状況を経験したスティーブ・ジョブズは、配当実施をひどく嫌っていた」と記している。

 そのジョブズがいなくなり、クック氏にトップが交代したことで、アップルが従来とは異なる姿勢を示す可能性が出てきたのではないかという話は、今月はじめにCNETに掲載された記事のなかでも触れられている通りだ(註2)。

 さらに、いちばんはじめに挙げたBloombergの記事のなかには、「大量の資金を動かせる年金基金などのなかには、投資先の選択(株式の銘柄選び)に際して配当があることを、一種の安定株の証として条件づけているところも少なくない。アップルが配当を出すことになれば、そうした新しい投資家層の資金も流れ込む——それだけ株価を維持するのが容易になる」という考え方が紹介されている。

 また、CNBCの記事には「利回り2.5%=一株あたり12.5%の配当を出しても、年間に116億5000万ドル程度にしかならず、これは手持ちの流動性資産がすでに980億ドルもあり、過去1年間に約400億もの利益を稼いだアップルにとっては、十分可能な数字である」とする試算さえ出ている。

 しかし、アップル側からみたとき、いま配当を実施することへの確たる動機付け、もしくはそうしなくてはならない「やむにやまれぬ事情」といったものがあるかといえば、とくに具体的なものが思い浮かぶわけでもない。

 その結果は既報の通りで、2月23日の株主総会では、積み上がった手元流動性の扱いについて訊ねられたティム・クックCEOが「必要以上の額がある」と認めたにもかかわらず、今回も配当は見送られた(註3)。

 2010年6月はじめにあったAllThingsD主催の「D8」カンファレンスに登場したスティーブ・ジョブズは、その10日ほど前にはじめて時価総額でアップルがマイクロソフトを上回ったことについて訊ねられ、「実はたいした意味はない」("it doesn't really mean anything.")と答えていた(註4)。


D8 Video: Steve Jobs on the Origins of the iPad

 アップルの取締役会で実際にどんな議論が交わされているかを知る術はないが、このジョブズの発言を踏まえて推測すると、アップルは現在の流れがつづく限り——不測の事態が生じたり、特別な出来事がないかぎり、株価上昇によるキャピタルゲインをもたらすこと以上に、何か特別なことを進んですることはないのではかと思える。

 そしてその「特別なこと」が何なのかについては、また別の機会に考えるとして、本稿ではもう少しアップルの株価について考えていきたい——それは、アップルの株価が他社とのバランスを崩しかねない危うい水準にまで進んでいるのではないか、という懸念だ。



註4:ジョブズ「実はたいした意味はない」

The first question is about Apple surpassing Microsoft in market valuation. Jobs says “It’s surreal, but it doesn’t really mean anything.”

Apple CEO Steve Jobs Live at D8: All We Want to Do is Make Better Products

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