編集部からのお知らせ
解説集:台頭するロボット市場のいま
解説集:データ活用で考えるデータの選び方

アップル株配当の原資が「国内の余剰資金」である理由 - (page 2)

三国大洋

2012-03-26 16:40

「原資」はすべて米国内にある余剰資金

 いっぽう、この「450億ドルの大盤振る舞いの原資をどこから持ってくるのか」という点は、すでに実行されるだけとなった計画自体よりも何倍も興味深い。

 この点について、前述のCNET Japanの記事には次のような記述がある:


 Cook氏とOppenheimer氏は、Appleが利用するのは米国で保有する現金であり、米国外にある現金の利用がないことを繰り返し強調した。Appleは、他の米国にある多国籍企業同様、米国外で得られた現金を保有するが、レパトリエーションと呼ばれる問題である現行の税務政策により、米国に移すことに積極的ではない。

 Cook氏は、「米国外にある現金のレパトリエーションによる税効果により、米国内にある現金にのみに注力した」と述べた。

 これだと、正直よくわからない……そこで(後出しジャンケンのようで恐縮だが、僭越ながら)勝手に「口語訳」してみた結果は次の通り。

 (両氏は)配当金の支払いと自社株買いの原資として、米国内に寝かしてある現金を使っていくと何度も念押しし、また国外に置いてある現金には手をつけるつもりがないという点にわざわざ注意を促した。アップルや米国に本社を構える多国籍企業には、国外で得た現金が大量にあるものの、現在の税制ではこの利益を米国内へ持ち込もうとする(「レパトリエーション」)と税金が発生する。そのため、この課税をいやがって、各社は利益を持ち込もうとしない

 「国外にある現金を米国内へ持ち込んで課される税金のことを考えた結果、国内にある現金だけを使うことにした」とクック氏。(註5)

 また、Wall Street Journal(WSJ)の記事には次のように記されている。

アップルは米国内にある現金をつかって(配当と自社株買いをして)いく。同社の現金の約3分の2は国外で寝たままとなっているが、そちらには手をつけない。アップルや、他の多くのテクノロジー系企業は、国外市場で得た利益について米国内へ持ち込むことを控えている。これは(持ち込もうとすると)重税を課され、それを負担しなくてはならなくなるからだ。(註6)

 「重い税負担」("heavy tax burden")とするあたりに、「さすがは『企業寄り』とされるWSJだけのことはある」、あるいは「故スティーブ・ジョブズとわりと仲が良かったルパート・マードック氏(WSJを保有するNews Corp.社主)に気兼ねして、慎重に言葉を選んでいるのだろうか」といった勝手な憶測も思い浮かぶが、それはさておき。

 この一節につづけて、さらに次の一文がある。アップルで最高財務責任者(CFO)を務めるピーター・オッペンハイマー氏のコメントである。

同CFOは19日の発表の電話会議で、「現在の税法は、国外にある余剰資金を国内に持ち込もうという気持ちを削ぐもの(disinsentive)」と連邦議会に対してすでに伝えてある、と述べた。(註7)

 一方、この発表のニュースを伝えたAPはもっと明け透けな表現で、「米国の法人税率がもっと低く、またRepatriation Taxといった面倒なものがなければ、株主への配当金額はもっと多くなっただろう」とクックCEOが示唆した、と書いている。(註8)

 以前の回で記したように、アップルの手元資金の約3分の2にあたる640億ドル相当が米国外にある。そのうちの一部は、部材の調達や海外企業の買収などさまざまな用途に振り向けられているはずだが、それを差し引いても相当な額が手つかずのまま置かれている可能性が高い。

 さらにAPでは、オッペンハイマーCFOのコメントについても「現行の税制は、経済的に相当なディスインセンティブ(disincentive)となっている。それがなければ、米国企業は国外に在るかなり大量の現金を国内に持ち込んでいるかもしれない」としている。

 そして、ここからは記者の判断も混じっている印象だが、「アップルは今回の株主対策に関し、今後計画する投資や、不測の事態に備えた予備の金額などを割り出し、それでも余ると判断したお金はすべて株主に還元することにした」とクックCEOが示唆したと書いている。

 さらに、この示唆について、次のように解釈してもいる。

 「アップルなどの各社が求めてきているRepatriation Tax Holiday——2004年に一度実施されたことがある——が実現し、640億ドルを課税率5%程度のかなり有利な条件で持ち込めるとなった場合、株主にはいま以上に多くの金額を渡せると(クックCEOが)言った」(註9)

 この解釈を字面通りに受けとめれば、アップルの首脳陣が640億ドルという大金を餌に、Repatriation Tax Holiday実現に向けた支持集めを株主や投資家に対して行った、ということになろう。ただし、企業の経営責任者に課せられたもっとも重要な使命が「企業価値の最大化」とされ、その能力が時価総額の向上——どれだけ株価を上げたか、時価総額を増やしたかという物差しで測られる状況下では、配当実施や自社株買いなどを通じた株主への利益還元はとくに非難される筋合いの話ではない。

 また「株主への配当に回す金額を増やすために、できるだけの節税策を施す」というのも一企業の経営、とくに経営陣と株主の間ではごくまっとうな話であるというのも、あえて言う必要のないことかもしれない。

 さて、タイトルにある通り「アップルの配当実施」については解説できたが、ここで紙幅が尽きた。次回は「100兆円をめぐる攻防」を解説したい。「100兆円」というのは米企業が国外に保有する現金のことで、実に1兆4000億ドルにのぼる。この膨大なお金を米国の景気回復と雇用促進に役立てようと主張しているのが、ロビー団体の「Working to Invest Now in America」(WIN America)だ。

Keep up with ZDNet Japan
ZDNet JapanはFacebookページTwitterRSSNewsletter(メールマガジン)でも情報を配信しています。現在閲覧中の記事は、画面下部の「Meebo Bar」を通じてソーシャルメディアで共有できます。

註5:450億ドルという大盤振る舞いの原資

Cook and Oppenheimer continually stressed that Apple would be tapping the cash it has in the U.S., and made the point to note that it would not be employing the cash it has overseas. Apple, like many U.S. multinational companies, has cash generated overseas that it is reluctant to bring back to the U.S. because of the current tax policy, an issue called repatriation.

"Because of the tax consequences of repatriating foreign cash, we focused on domestic cash," Cook said.

Apple taps $100B cash pile to pay dividend, buy back stock - CNET.com


註6、7:WSJが書く「重い税負担」

Apple will use cash it holds domestically rather than dip into its overseas holdings, where about two-thirds of its total cash sits. Apple, like many technology companies, refrains from repatriating due to the heavy tax burden of bringing that cash back to the U.S.

In Monday's call, Apple Chief Financial Officer Peter Oppenheimer said the company has told Congress current laws provide a "considerable economic disincentive to U.S. companies" for repatriating it.

Apple Pads Investor Wallets - WSJ

ちなみに、次のリンク先ページでこの電話会議の模様を録音したウェブキャストが公開されている。

Apple - Apple Events - Apple Conference Call March 2012

註8:APが伝えたクックCEOの示唆

Cook suggested that the dividend could have been larger if U.S. tax laws were different. Apple to pay dividend, start stock buybacks - AP (Yahoo)


註9:Repatriation Tax Holidayが実現したら……

"Current tax laws provide a considerable economic disincentive to U.S. companies that might otherwise repatriate a substantial amount of foreign cash," Chief Financial Officer Peter Oppenheimer said.

Cook said Apple looked at how much domestic cash it had, then set aside enough for planned investments and unforeseen outlays. What was left over would be given out to shareholders, he said.

That suggests that if Apple could bring back its $64 billion in overseas money, the rewards to shareholders could be larger. Corporations have been clamoring for a change in tax laws, or a repeat of a 2004 tax amnesty on repatriated earnings.

Apple to pay dividend, start stock buybacks - AP (Yahoo)

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

Special PR

特集

CIO

セキュリティ

スペシャル

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNet Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]