一貫して批判的な報道を続けている『Bloomberg Businessweek』誌が昨年秋に詳しく報じたとおり、WIN Americaやそれに関係する各企業は、有力な元議員や議会関係者を大勢抱え込み、連邦議会——具体的には、下院の歳入委員会(House Ways and Means Committee)、同エネルギー・商業委員会(House Energy and Commerce Committee)、それに上院の財務委員会(Senate Finance Committee)の中核議員らに対して積極的なロビー活動を続けている。
この積極的な攻勢は、それだけ「無理を通そう」としていることの証とみることもできよう。(註7)
いずれにせよ、2004年の一時的な特例措置実施で抜け道を悪用され、それに懲りたとされるワシントン関係者の間では、現在議論が活発化し始めた大幅な法人税改正——1986年以来の大規模な手直し——というより大きな枠組みのなかで、この海外埋蔵金に対する課税の問題を処理したい考えが優勢となりつつあり、また特にオバマ大統領自身はすでに現行の「ユニバーサル課税」から「テリトリアル課税」への移行の必要性さえ認めず、海外で寝かされている企業の利益に対して「みなし課税」をするとの考えさえ示唆していることは以前に述べたとおりだ。
この「Repatriation Tax Holiday」をめぐる議論の流れや、2004年の前例の中味、さらに実施反対派が懸念している米国企業の「超節税対策」(米国よりも税率の低い国に設けた関係会社を利用して、課税対象額を2.4%程度まで縮めたとされるグーグルの実例など)については、次回以降にできるだけ詳しく説明したいと思う。
最後になるが、今回のアップルの発表に触れたDigits(WSJ)の記事に面白い表を見つけた。「国外で塩漬けになっている資金の多い主な企業の一覧」(10:37 pm by Scott Austinを参照)とでも呼べるリストで、右端の"Total Cash"のケタは百万ドル($ million)だ。
ここに挙げられた10社のうち、ジョンソン&ジョンソン、ゼネラルモータース(GM)、フォードの3社を除くすべてが、前述のWIN Americaのサポーター企業として名を連ねていることは単なる偶然の一致ではあるまい。(註8)
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註7:無理を通そうとしている?
Lobbying for a Trillion-Dollar Tax Holiday - Businessweek
註8:偶然の一致ではあるまい
Live Blog: Apple Announces Cash Plans - Digits (WSJ)
ちなみに、3月15日にシスコシステムズがビデオ配信用ソフトウェアを開発するNDSグループという英国企業を50億ドルで買収すると発表したことがニュースになっていたが、この買収資金の出所もやはり海外に塩漬けになった利益だという。マイクロソフトが昨年スカイプを85億ドルで買収したときと同じである。
この話を採り上げたBloombergの記事には、シスコが保有する約467億ドル(今年1月末時点)の現金・流動性証券類のうち、米国内にあるのは50億ドルだけで、残りはすべて国外で塩漬けにしてあるとも書かれている。(数字はすべてBloombergの取材を受けたシスコ広報のコメントより)
こういう話を聞くと、シスコのチェンバースCEOがオバマ大統領との夕食会(2011年2月)でさっそく「Repatriation Tax Holiday」の話を切り出し、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏に眉をひそめられた、という以前に紹介したエピソードの違った面が見えてくる気もする。
つまり、ひとつはあの時点で業績があまりパッとしていなかったシスコの経営者としては、国内にあって簡単に動かせそうな資金がどんどんと乏しくなり、その分余計に「塩漬けのお金」を自由に使えるようにしたいと切望していた、という解釈。また、もうひとつ別の解釈は、「アップル、シスコ、オラクル、グーグルなどの経営トップや創業者が顔を揃えたのだから、この海外埋蔵金の話は出て当然の話題だった」というもの。
ただ、後者の場合は「われわれは、この国にとって重要な事柄について話をするべきだ。なんで彼(チェンバース氏)は自分に都合の良いことだけを話しているんだろう」と臨席した大統領の側近にささやいたというザッカーバーグ氏のほうが、その場の「空気を読んでいなかった」ということになってしまうが、これはいささかおかしな話。なぜなら、ザッカーバーグ氏も他の居並ぶ重鎮と同じように、遅かれ早かれ、この問題に直面することがほぼ間違いないから。だとすれば、ウォルター・アイザクソン氏がスティーブ・ジョブズ公認自伝のなかに、なんでわざわざこのエピソードを盛り込んだのか——というほうに疑問の焦点が移る(どうしても話の流れに欠かせない、というエピソードとは思えない)。
だが、無論、アイザクソン氏の真意を確かめる術はいまのところ無い。