このハンセイダー氏の「当日、あの瞬間に、実際にどんなことが起こっているのかは、誰にもわからなかった」というコメントが、番組製作側の意図——つまり、コンピュータによる(アルゴリズムベースの)株式売買の発達、あるいはその結果として生じた「ブラックボックス化」という現実をしっかり伝えている。
だが、実はそれよりさらに強い印象を残す一言がその後出てくる。この番組内で何度も出てくる科学史家のジョージ・ダイソン氏——物理学者でプリンストン高等研究所に在籍していたこともあるフリーマン・ダイソン氏の子息で、かつてニューズレター「Release 1.0」の発行や「PC Forum」の運営を手がけたジャーナリスト兼エンゼル投資家のエスター・ダイソン氏の兄——は、こうした取引に必要とされる複雑なアルゴリズムが、すでに自己学習型に移行している可能性を指摘。
自己学習型で進化するアルゴリズムでは「喩えて言うと、1000回新しいことを試して、1回でも成功すればよく、システムは成功したその結果を今度は自らの中に取り込んでいく」という……。
つまり、この番組は「ブラックボックスのなかで、いまどんなものが育っているのかわからない」という、ちょっと嫌な感じを残して幕を閉じる(一番最後の部分では、「私自身は株式には手を出していない」という複数の専門家のコメントが続けざまに映し出されるが、そんなところにこの番組製作者側の主観的な「見方」=バイアスがはっきり現れているが、それはさておき)。
「知っている人は『当たり前のこと』として知っている一方、ちょっと立ち場が違う人はまったく知らなかったりする」ということが世の中にはけっこうあり、個人的には最近そうしたことがとみに増えているというような実感もあるが、この「フラッシュ・クラッシュ」をめぐる話も、そうしたもののひとつとしてメモした次第である。
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