オラクルのハードウェア戦略を読む(前編)--オープン系システムの功罪を解く - (page 2)

田中好伸 (編集部)

2012-04-02 12:00

 筆者にとって特に印象的だったのが、5社まとめて発表された導入事例だ。一般的にユーザー企業の導入事例というのは1社ごとに発表されるのだが、2011年にExadataの導入事例は4月7月にそれぞれ5社まとめて発表されている。これはかなりの異例と言える。この3月現在、Exadataを導入している企業で社名を明らかにしていいのが33社、「全体の規模感で言うと3ケタ台」(広報室)という。

 なぜ、Exadataが異例とも言えるスピードで導入されているのか? データウェアハウス(DWH)と基幹系業務システムでのオンライントランザクション処理(OLTP)の両方で活用できるという、これまでになかった製品だからだ(対抗製品と言えるのがインメモリアプライアンスソフトウェアの「SAP HANA」)。

 加えて、Exadataが同社のRDBMS「Oracle Database」を稼働させるように最適化されたアプライアンスということも大きく影響している。ユーザー企業に蓄積されたOracle DBの経験やノウハウなどの資産を継承できるからだ。

 Exadataは2008年9月に初めて披露されているが、当時と現在とではある意味、全く違う製品だと指摘できる。2009年にOracleがSun Microsystemsを買収しているからだ。

 2008年時点のExadataは、ソフトウェア面でOracle DBを中心に作りこみをしているが、ハードウェア部分に関してはHewlett-Packard(HP)との共同開発だ。HPが持つ業界標準のIAサーバをベースにExadataを作り込んでいる。だが、この場合だと、ハードウェアの深い部分まで手を入れることができない。より機能と性能の向上を図ろうとするには、他社との共同作業が必要になってくるからだ。

 そこに来たのが、Sunの身売り話である。Sunの技術(とそれを開発する人材)を活用すれば、アプライアンス全体を性能が出るようにハードウェアの深い部分まで作り込むことができるようになる。

写真1 OOW 2011で講演するLarry Ellison氏。4月4~6日の「Oracle OpenWorld Tokyo 2012」で来日する

フルスタックで提供するOracle

 2009年4月のOracleとSunの買収合意時の記事にあるように、Oracleの最高経営責任者(CEO)のLarry Ellson氏はSunのハードウェアやソフトウェアをExadataに統合したかったと想像できる(ちなみに2003年当時、Ellison氏はSunを買収するのは「まずいアイデア」であり、「Oracleはハードウェアビジネスを手がけるべきではない。したがってハードウェア企業を買うことにはならないだろう」と発言している)。

 実際に、Sun買収後の2009年11月から国内で提供されているExadataはCPUこそXeonだが、Sunの「FlashFire」技術を導入している。

 OracleはSunの資産を取得したことで、それまでとは大きく異なる企業になった。CPUやOSの下位からアプリケーションという上位までのフルスタックを提供できるからだ。

 CPUとしてSunが開発している「SPARC」があるし、OSではOracleがもともと開発している企業向けLinuxディストリビューションの「Oracle Linux」に加えて、Sunの資産であるUNIX OS「Solaris」(現在は「Oracle Solaris」)がある。DBとしては当然Oracle DBがある。現在のシステムに欠かせないアプリケーションサーバとしてSun以前に2008年に買収したBEA Systemsの「WebLogic」、そのほかのミドルウェアがある。

 Sun買収後には、企業向けシステム開発言語の主流である「Java」も活用できる。ビジネスアプリケーションとしては統合基幹業務システム(ERP)パッケージの「Oracle E-Business Suite」のほかに「PeopleSoft」や「JD Edwards」もある。

写真2 OOW 2011の会場内で撮影。オラクル関係者によれば、米国のUNIX OSではSolarisが最も活用されているという

際立つHPやIBMとの違い

 こうして見ると、Sun買収後のOracle(業界ではOracle/Sunから「オラサン」とも呼ばれる)がいかに特殊なメーカーであるかが分かるだろう。その違いはIBMやHPと比較すると、さらに鮮明になってくる。

 IBMには、RISCプロセッサとして「Power」があり、UNIX OS「AIX」があり、独自開発のDBとして「DB2」があり。そのほかにもアプリケーションサーバ「WebSphere」をはじめとする、さまざまなミドルウェアもあるが、ERPやサプライチェーン管理システム(SCM)などのビジネスアプリケーションを(意図的に)持っていない(しかし、2007年にビジネスインテリジェンス(BI)アプリケーションベンダーのCognosを買収するなど、BI/DWH分野での買収をこの数年続けている)。

 一方のHPにはUNIX OSとして「HP-UX」があるが、独自のRDBMSもなければ、ビジネスアプリケーションもない。それでもHPはIntelと共同で64ビットCPU「Itanium」を開発してきている。

 だが、HP自身にItaniumの知的財産権はない。Red HatとMicrosoftなどがItanium向けOSの開発をやめ、SPARC/Solarisを手に入れたOracleがItanium向けOracle DBのライセンスを実質的に値上げし、やはりItanium向けソフトウェアの開発をやめるなど、Itaniumの先行きは不透明といわざるを得ない(しかも、HP自体がItaniumベースのサーバにx86プロセッサも載せる計画を明らかにしている)。

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