iPadの利益、発売時と10カ月後を比較してわかること
アップルの新製品発売——なかでも、iPhoneやiPadの新機種リリースといえば、いつのころからか「解体ショー」がお約束となった感がある(註3)。
最近ではAAPL(アップル株価)同様にこうした「バラし」もエスカレートして、3月の新型iPad発売時には、iFixitの連中が世界でいちばん早く売り出されるオーストラリアまで出かけて、米国時間に直すと発売日前日にその様子をウェブで公開する始末だった(註4)。
そのようにして、あっという間に「丸裸」にされた新製品は、ほぼ同時にその部品代金(Bill of Materials:BOM)まですっかり公になってしまう。この手の情報元の代表格はIHS iSuppliという調査会社で、新型iPadでも「お約束」通り、発売後の週明けにはBOMの話が公開されていた(註5)。
ところで。こういう類の情報はもはやすっかり「コモディティ」となっており、媒体運営者側でも半分ルーティンでできてしまうものだ。喩えていえば、桜の季節になると、東京のテレビ局なら千鳥ヶ淵や上野公園に出かけていってカメラを回すのとほぼ同じで、けっして価値がないという訳ではない。しかし、一般のニュース番組で桜の話題がまったく出なかったら、そのほうが視聴者にいぶかしまれるだろう。だからといって競合他社との差別化につながるようなコンテンツでもない……。見方によっては、ニュースを出す側にとってもつまらないネタといえる。
前述のBloomberg Westの番組に話を戻すと、「さすがに組織としての体力がある、金看板を背負った連中はちがうな」と思ったのは、ジーン・マンスターとのやりとりの前に少しだけ登場したコーリー・ジョンソン(Cory Johnson)の解説の部分。
このジョンソンという人物は「Editor-at-Large」(日本で言えば「論説委員」か)という肩書きのBloomberg TVの人間で、この番組のレギュラー出演者。そのジョンソンがBloombergで実施した独自調査の話をしていた。
「iPad」とサムスン電子の「Galaxy Tab」(機種は不明)の粗利を比較した話である(なお、当該場面を含むビデオクリップがウェブからは見つけ出せなかった。手元にあるiPad用の「Bloomberg TV」アプリからはわりと簡単に見つかったのだが)。
この調査データで興味深かったのは、両方の製品の原価、売価、粗利について、新製品の発売時だけでなく10カ月経過した後でも比較していたところ。両者の比較は、それぞれ次の通り。
発売時
- iPad:原価(COG) 405ドル、粗利 54ドル、売価 459ドル(粗利率 11.76%)
- Galaxy:原価(COG) 338ドル、粗利 34ドル、売価 372ドル(粗利率 9.13%)
10カ月後
- iPad:原価(COG) 331ドル、粗利 128ドル、売価 459ドル(粗利率 27.88%)
- Galaxy:原価(COG) 276ドル、粗利 40ドル、売価 316ドル(粗利率 12.65%)
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もっとも、この調査の対象がそれぞれの機種を全部ひっくるめたものなのか(少なくともGalaxy Tabの場合は、iPadとほぼ画面サイズが同じ「10.1インチ」のさまざまなバージョンか)、それともよく似た仕様の特定のモデル同士を比較しただけなのか(そうだとすると、小売値が499ドルのiPad Wi-Fi版の場合、小売業者への仕切り値<卸値>が459ドルであれば、小売業者のマージンはたった40ドルしかないことになってしまう)といった具体的な点への言及もなく、またGalaxy Tabの値下げを誘引する要因、つまり「どうしてそれほど下げなければならなくなったか」などについての細かい説明もないため、その点で「ツッコミどころ満載のデータ」という見方もできよう。
だが、それらについては「今後の宿題」として、ここではこのBloombergのデータをそのまま受け取ることにする。(次ページ「市場を支配する者の力」)
註3:アップル新製品の解体ショー
分解、新しい「iPad」--Wi-Fiモデルの内部を見る - CNET Japan
註4:米国発売前に解体ショー
iFixit、アップルの新「iPad」を早速分解 - CNET Japan
註5:公になる部品ダイキン
新「iPad」部品コスト、旧モデルより増加か--アイサプライが調査報告 - CNET Japan