市場を支配する者の力
iPadもGalaxy Tabも「たくさんつくればつくるほど原価が下がる」という点では、ほとんど差はない。原価の低下率は、iPadが331ドル/405ドル=81.73%に対して、Galaxy Tabも276ドル/338ドル=81.65%だ。
しかし、10カ月後も価格をそのまま維持できるアップルと、56ドル(当初の売価を基準に考えれば約15%)も値下げせざるを得ないサムスンの違い。これこそアップルのいまの強さを象徴しているとジョンソンは説明していた。
アップルの「購買力の大きさ」についてはすでに周知の話だと思う。最近でもサムスンとの取引額について「昨年1年間に約70億〜80億ドル」「今年は最大で110億ドル程度にも」といった話が出ていたのを目にした(註6)。
だから「Retinaディスプレイ」のような新しく、その分当初は割高な部品を積んだせいで、新しいiPadのコストがiPad 2に比べて若干増えたにしても、「どうせアップルは購買力にものを言わせて、粗利率が下がらないように帳尻を合わせてくるのだろう」くらいにしか思っていなかった(註7)。そのため、「製品サイクルの終わりころには、粗利率が当初の倍以上に増える」というのは、私にとってはちょっとした驚きだった。
もっとも、それだけ初めは薄利多売で、新型iPadの販売台数がたとえ「発売から3日間で300万台」に達したとしても、アップルにとっての旨味はそれほどのものでなない、といった見方もできるかもしれない。あるいは、1台200ドル程度の原価でありながら、最新型なら600ドル以上で売れるiPhoneに比べれば、iPadは旨味の少ない製品……といった事柄も思い浮かぶ(註8)。
それでも、自分たちが主導権を握る市場で戦える者の力の大きさ——英語の記事では「支配する」(dominate)といった言葉が使われるのをよく目にするが、そんな「市場を支配する」ことの本当の意味を、このBloombergのデータからなんとなく感じ取った気がしている(註9)。
同時に、IHS iSuppliなどのBOMについてのレポートやAsymcoのデータなどをみて、ある程度「わかったつもり」になっていた自分が少し恥ずかしくなった次第。はやくも半月後に迫ったアップルの次の決算発表(24日)では、これまでよりもさらに注意して結果の数字を見ていこうと改めて自戒している。
註6:アップルとサムスン電子の取引額
Samsung's parts sales to Apple edge towards $11 bil. - Korean Times
註7:アップルは自身の購買力で粗利率が下がらないようにしてくる…?
"Gross Margin"のこと。
Apple Sets New Bar for Industry - WSJ
Apple - WSJ
売上(Sales/Revenue)を分母に、Gross Incomeを分子とした比率。過去数四半期はだいたい40%前後で推移していたが、iPhone 4Sがバカ売れした前四半期(2011年10〜12月期)にはこれが44%台まで跳ね上がった。売上全体が大幅に増えた(前年同期比72.5%増)上に粗利率まで上がっているというのは、もう「何をかいわんや」である。
- 31-Dec-2010:10,298/26,741=38.5%
- 31-Mar-2011:10,218/24,667=41.4%
- 30-Jun-2011:12,084/28,672=42.1%
- 30-Sep-2011:11,383/28,237=40.3%
- 31-Dec-2011:20,465/46,146=44.3%
註8:iPadは旨味の少ない製品
売価については「iPhoneの平均販売単価について - 選択肢多様化の影響を考える - Asymco」を参照。また部品コスト(BOM)についてはiSuppliの過去の下記データを参照
iPhone 4S Carries BOM of $188, IHS iSuppli Teardown Analysis Reveals - IHS iSuppli
iPhone 4 Carries Bill of Materials of $187.51, According to iSuppli - IHS iSuppli
iPhone 3G S Carries $178.96 BOM and Manufacturing Cost, iSuppli Teardown Reveals - IHS iSuppli
註9:「市場を支配する」ことの本当の意味
もちろんグーグルやマイクロソフトなどにしても、それぞれの得意分野で、この例のアップルと同様、あるいはそれ以上の支配力=収益力を持っているはずだと思う(手元に具体的な数字がないためすぐには断定できないが)
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