4月5日、オバマ大統領がJOBS Act(Jumpstart Our Business Startups Act)に署名し、クラウドファンディングが法的にも可能となる枠組みが出来上がった。クラウドファンディングとは、ビジネスなど何らかの事業を行うに際し、ネットを通じて小口の出資を募るスキームのことを言う。
JOBS Actでは、中小企業が年間100万ドルまでクラウドファンディングで調達することが可能となる。その際に、米国の証券取引委員会への情報開示が不要であることが、従来の枠組みと大きく異なる点である。
一方で、この規制緩和が個人投資家に対する詐欺的行為を横行させるのではないかとの指摘もある。個人投資家に損失を与えることとなり、証券市場への不信感に繋がると懸念されている。なかには、こうした負の要素を勘案すれば、企業の資金調達コストが結果的には上がるのではないかと指摘するものもある。
確かに、規制の緩和にはそれに伴う懸念が付きまとう。今回も、個人投資家の一人当たりの投資可能金額を年収に応じて制限するなどの施策が盛り込まれている。
しかしながら、今回のJOBS Actの件で面白いのは、米国政府が、テクノロジをうまく活用して金融機能を変えていこうという意志を示したことだろう。景気浮揚や雇用回復という大きな課題があったとは言え、この点は注目に値する。
かつてソーシャルレンディングが広まった際は、ある程度市場規模が拡大してから、事後的にこれを証券投資と判断し、事業者に対し証券業登録を行うように求めた。その際には、各社が一時的に新規募集を停止する事態に陥るなど、ソーシャルレンディングのマーケットは不透明感に包まれた。
それに対し今回は、クラウドファンディングの枠組みを政府が積極的に活用すべく、規制そのものを緩和する動きに出た。
従来のように、テクノロジドリブンで出来上がった新しいビジネスモデルを、当局が従来の枠組みになんとか当てはめて規制しようという姿勢から、もはや従来の枠組みでは捉えきれないから、新しい枠組みを用意しようという姿勢へ変わろうとしているのかもしれない。少なくとも、今回のクラウドファンディングの事例はそうである。
クラウドファンディングについては、その議論にみられる通り、その緩和によって中小企業の資金調達が柔軟に実施できるというメリットと、個人投資家の保護に懸念が生じるというデメリットが共に存在している。
しかし、テクノロジドリブンで実現する新しいビジネスモデルを活用できるか否かが、国家の経済や成長に影響を与えるのだとすれば、それを積極的に活用出来る国の方がより高い成長を実現するだろう。そうすると、おのずと守るべきは、従来の枠組みなのか、あるいはそれを乗り越える意志であるのかは自明である。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。