各界のエグゼクティブに価値創造のヒントを聞く連載「ZDNet Japan トップインタビュー」。今回はプロティビティLLC副社長の三ッ森隆司氏に話を聞いた。
グローバル展開を進める日本企業を支援
「日本企業が官民一体でグローバルに出ている。こうした取り組みを支援したい」
1月に、米Protivitiの日本法人、プロティビティLLCの副社長に就任し、金融業界とIT業界向けのコンサルティングを担当する三ッ森隆司氏は指摘する。「業種の異なる複数の企業が協力して、街ごとつくってしまうようなプロジェクトが今後増える」という。
プロティビティの前身は、かつての世界5大会計事務所の一角である米アーサー・アンダーセン(AA)。2002年に米エンロン社の粉飾会計が発覚したいわゆる「エンロン事件」をきっかけに、解散に追い込まれた。エンロンの社内資料の破棄指示を出していたことが、犯罪捜査での公務執行妨害に当たると判断されたからとされている。
プロティビティの三ッ森副社長
その後、AAのリスクコンサルティング部門が分離し、ノウハウを継承する形で設立されたのがProtivitiだ。ガバナンスやリスク管理、内部統制、グローバル化などの分野で企業を支援している。特に、成長の場を海外に求める日本企業は、法律や税制などさまざまなリスクを抱えているため、専門知識を持つコンサルティング企業が活躍する場となっている。
2012年1月に入社した三ッ森氏は、もともと1983年にAAに入社し、後にAAからコンサルティング部門が独立した旧アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)へと進んだ。その後、ISID、旧コンパック・コンピュータ(現HP)を経て、旧コンピュータ・アソシエイツ(現CAテクノロジーズ)および日本NCRでは社長を務めた。「ITベンダーでの経営経験がプロティビティに評価された」(三ッ森氏)と話している。
プロティビティは現在、グローバルに事業展開する日本企業を積極的に支援しようとしている。中国ビジネスを支援する組織「中国JBO(Japanese Business Organization)」もその1つだ。
中国JBOの活動拠点は、東京、大阪、北京、上海、香港の5カ所。担当するのは、IT、会計、投資、税務、法律の専門家で、いずれも日本語・中国語のバイリンガルだという。200人に上るプロティビティ中国と連携し、組織およびITのガバナンス強化、シェアードサービス化やサプライチェーンのコスト最適化などを支援する。
支援のイメージとして、日系の百貨店やスーパーマーケットなどが、中国店舗との間でシステムを連携できないケースなどが挙げられるという。中国の店舗が独自の情報システムを構築してしまうため、日本で発行したポイントカードが中国で使えず、顧客満足度が下がるといった状況だ。長期的視点に立つと、こうした課題を放置できないと考えるのが普通である。
官民一体の取り組みが広がる
三ッ森氏が指摘する「官民一体」の一例として、「クール・ジャパン戦略」の海外展開支援プロジェクトが挙がる。2011年6月、経済産業省はクール・ジャパン官民有識者会議の提言を受け、クール・ジャパンを担う中小企業の海外展開を後押しするプロジェクト提案の公募を開始した。公募は、ファッション、コンテンツ、食、地域産品などの分野で対象国や地域を決め、業種を超えたチームづくり、市場調査、市場開拓、成果の検証、事業展開などを含むプロジェクトを募集するものである。
クール・ジャパン戦略における取り組みの1つであるECサイト「Harajuku Street Style in Singapore」では、蝶理、BEAMS、77thストリートなど日本のストリート・ファッションのブランドを束ねた。ASEAN・中国・インドの玄関口になっているシンガポールにおいて、ショッピング通りに面した百貨店と協力し、ネット販売でのテストマーケティングを実施。アジアのマスマーケットで「売れる価格設定」を特定し、現地消費者の視点を踏まえたPR活動を実施することで、日本のファッションブランドのファン層を拡大するのが狙いだ。
このように海外進出する企業は、さまざまな側面から支援を必要としている。三ッ森氏は「生産管理や金融、POSを含めたシステム系の案件から、銀行向けの自己資本比率規制である“バーゼルII”や保険業界で会社の健全性を示す指標“ソルベンシー・マージン比率”への対応なども対象になる」と指摘する。
「プロティビティは、会計監査のDNAを持っていながら、経営コンサルティングができるのが強み」(三ッ森氏)
法的には、会計監査と経営コンサルティングは分けることが決められている。プロティビティは会計監査企業ではなくコンサルティング事業者であるが、会計事務所であったAAの遺伝子を今も保持していることが、競争力につながっているという。
日本企業による海外事業展開は今後さらに増えると予想されており、海外事業の経験やノウハウを持たない日本企業が成功するためには、こうしたコンサルティング企業による支援の質が1つのカギになりそうだ。