ハイパー節税策の先駆者 アップル - (page 2)

三国大洋 2012年05月01日 12時16分

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「ハイパー節税策」の先駆者、アップルの税率は9.8%

 アップルの財務諸表(損益計算書)は、Wall Street Journalが見やすいので、それを参照しながら話を進めよう。

 ここで、2011会計年度(2010年10月〜2011年9月)の「Pretax income」のところに「34,205 million」とある。税引き前利益がざっと342億ドル(約2兆7500億円)だったことを示す数字だが、そのすぐ下にIncome Taxの合計額として「8,283 million」(82億8300万ドル)とある。この数字は税引き前利益を分母にしてみるとだいたい24%程度になるが、しかしアップルが実際に支払う金額ではない——今回のNYTimesの記事では、アップルが全世界で実際に支払った税額("cash taxes")は33億ドルで、実際の税率は税引き前利益の9.8%に過ぎない、としている(註8)。

 そして、NYTimesではアップルなどのテクノロジー企業の納税額が少ないことを強調するために、ウォルマートの例を比較に出している。世界一の売上を誇るこの小売チェーンでは、昨年244億ドルの利益を計上、納税額は59億ドルでだいたい24%だったという(註9)。

 ちなみに、いわゆる「10-K」フォーム(法律で開示が義務付けられた年次決算情報)から実際の正確な納税額を知るのは「ほぼ不可能」とNYTimesは記し、次のような識者の声を引用している。

「ほとんどの企業の場合、10-Kに出ている情報は作り話 … だが、テクノロジー企業の場合は(たんなる作り話のレベルを超えて)茶番になっている」(註10)

利益計上の比率は「米国3割、海外7割」 海外分の税率は3%程度

 前回、「グーグルが2007年からの3年間で、ハイパー節税策を講じて実際には2.4%程度しか税金を払わなかった/その間に31億ドルも税金を節約した」というBloombergの記事を紹介した(註11)。

 今回のNYTimesの記事をみると、この「ハイパー節税策」についてはどうもアップルのそれをお手本にしたのでは……と思える節がある。冒頭の引用——『ダブルアイリッシュ付きのダッチサンドイッチ』云々がそれで、アップルはこうした手法をいち早く採り入れた企業の一社。その結果、米国外であげた利益に対する税率は2011年に3.2%、その前年には2.2%だったという。

 さらにNYTimesでは、「アップルは大半の幹部が米国内におり、研究開発もデザインもマーケティングなどももっぱら米国内で行われ、知的財産も米国内で登録されている——価値を生み出だしている場所が米国内」なのだから、「米国内で3割しか利益が生み出されていない」というのは、現行の米国の会計原則に照らすとおかしい——つまり、仮に価値が生み出された場所が国内と国外で半々だとすると、「利益の2割を、より低税率な国外の法人に付け替えている」と主張する。

 この節税の「入り口」となるのが前述の「ダブルアイリッシュ」——アイルランドで登記した二つの法人である「Apple Operations International」ならびに「Apple Sales International」で、ここだと表向きの法人税率が12.5%と、米国の35%にくらべてはるかに低い。なお、この施策の結果、アップルのアイルランド法人で計上された売上は全世界の3分の1以上にもなっているという。

 また、アイルランド法人は2006年に財務情報の開示義務がない「unlimited corporation」に改組されており、最終的に利益が流れ込むのも英領バージン諸島に登記した「Baldwin Holdings Unlimited」というペーパーカンパニー——アップルのピーター・オッペンハイマーCFOが役員(listed director)——であることから、グーグルの場合と同様に全容をつかむのはかなり難しい状況であることが察せられる。

 ちなみにこの記事では、アップルが「ダブルアイリッシュ」などを使い始めたのは1980年代後半という元関係者——1994年までアップル・ヨーロッパに在籍したティム・ジェンキンス(Tim Jenkins)氏という人物——のコメントが出てくる。アップル関連のセンシティブな話題で、匿名ではない情報源の話が紹介されるのはめずらしい。

 話を戻すと、アップルが2011年(会計年度)に計上した税引き前利益約342億ドル(1ドル80円換算で約2兆7500億円)のうち、米国外で計上された利益は全体のほぼ7割で、これに対する課税率は実質3.2%だった。

 さて、こうしてたまりに溜まった利益がしめて740億ドル(先ごろの決算発表で、前四半期末からさらに100億ドルも増えていることが判明)。そして、この巨額の利益をたとえ一部でも「どうにか動かせるようにしたい」というのが、Repatriation Tax Holiday再実施に向けたWIN Americaというロビーグループの活動につながってくる

 もっとも、いまのアップルの財務状況を考えれば、この利益を「塩漬け」にしたままでもとくに困りはしない。3月に発表した株主配当実施と自社株買い戻し計画についても「すべて米国内にある利益でまかなう」と発表していたことは周知の通り。

 それでも、仮に前回の2004年のタックスホリデーと同じ税率(5.25%)で国外に溜まった利益を米国内に持ち込めるようになるとすれば、アップルが負担する税率は合わせて8〜9%と、米国や日本、欧州の主要国の法人税とくらべても、一桁少ない税率で資金を自由にできることになる。

 なお、NYTimesではWIN Americaの要求するタックスホリデーが仮に認められると、米連邦政府には今後10年間で790億ドルの潜在的負担増につながる、とする議会の試算が引用されている。

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註8:アップルが払った税額は33億ドル、税率は税引き前利益の9.8%

As it stands, the company paid cash taxes of $3.3 billion around the world on its reported profits of $34.2 billion last year, a tax rate of 9.8 percent. (Apple does not disclose what portion of those payments was in the United States, or what portion is assigned to previous or future years.)


註9:一方、ウォルマートは……

By comparison, Wal-Mart last year paid worldwide cash taxes of $5.9 billion on its booked profits of $24.4 billion, a tax rate of 24 percent, which is about average for non-tech companies.


註10:10-Kの情報は茶番になっている

"The information on 10-Ks is fiction for most companies," said Kimberly Clausing, an economist at Reed College who specializes in multinational taxation. "But for tech companies it goes from fiction to farcical."

このキンバリー・クラウジング(Kimberly Clausing)氏という経済学者の所属がリード・カレッジ(Reed College)——ジョブズが約半年在籍したオレゴン州ポートランドにある大学というのは単なる偶然にしても皮肉なものと思えてしまう。


註11:グーグルのハイパー節税策を紹介するBloombergの記事

Google 2.4% Rate Shows How $60 Billion Lost to Tax Loopholes - Bloomberg

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