シスコの「株主」となったラルフ・ネイダーの配当増額要求
WIN Americaに参加するような大企業が、米国内で圧縮した分も含む巨額の利益を低い税率で国外から持ち込み、それを使って株主配当や自社株買い戻しといった形で投資家に利益還元する。そのいっぽうで、政府にはお金が流れず、しわ寄せを受けたコミュニティカレッジなどでは講座の削減などに追い込まれ、新しいスキルを身に付けて仕事に就きたいと考える低所得者や失業者がいたとしても、それもままならない……。
子供時代に刷り込まれた「星飛雄馬 vs 花形満」や「矢吹丈 vs 力石徹」といった構図が抜けない人間としては、そういうNYTimesの描き方を目にすると、どうしても「強欲な金持ち=悪玉」「弱者=善玉」といった先入観にとらわれてしまう。
けれども、それが現代の実状と乖離した認識であることは、以下のふたつの事例からも明らかだろう。
1. アップル株式の86%を投資信託が保有
ミューチュアルファンド(投資信託)の多くは、一般投資家からのお金で運営されている。各ファンドの購入者の内訳まではわからないので、一概に言い切ることはためらわれるが、それでもごく一握りの富豪だけがアップル株式を独占しているとは思われない。
むろん、生活保護まで受けているような人たちに投資信託を買える余裕があるとも思えないが、それでも2番目に大きな保有者になっているバンガードのファンドなどは日本のオンライン銀行などからでも買うことができる。
- CORRECTION: Here's Who Owns Apple Stock - Business Insider
2. ラルフ・ネイダーがシスコに配当金増額を要求
ラルフ・ネイダー(Ralph Nader)といえば、いわゆる「consumer advocate」=「消費者(保護)活動家」として知られ、何度か大統領選挙にも立候補したことのある人物だ。
- ラルフ・ネーダー - ウィキペディア
長年環境問題、消費者の権利保護問題や民主化問題に携わっている。近年のアメリカの対外政策は帝国主義的で、大企業への利益誘導を行っており、民主主義の根本と人道に反しているとして批判をしている。大企業の持つ力にも批判的である。
デビッド・ハルバースタムの往年の名作『覇者の驕り』にも、たしか巨大自動車会社に立ち向かう若者として登場していたような記憶があるが、そんなネイダーが2011年6月に株式を保有するシスコシステムズに対して、配当金の増額を要求したことがニュースになっていた。
時と場合によっては「企業市民の果たすべき義務」といった視点から、この法人税の問題を追及すべき立ち場の人物として筆頭に来てもおかしくないネーダーが、21世紀のいまでは「投資家・資本家の立ち場」から物言う人間となっている。