例えば、成長に陰りの見える企業のトップが、新たな成長エンジンを作ることを目指し、イノベーションの配分を90:10:0から20:30:50に変えると宣言したとする。しかし、そもそもコアとその隣接領域しか考えてこなかった社員が、いきなり“TRANSFORMATIONAL”なイノベーションを考えられる訳がない。
これは前回の企業文化の話に繋がるのだが、イノベーションというのは戦略的判断に加えて、社員のマインドセット、投資判断の仕組みなど、組織能力に組み込まれていないと実現することが出来ない。それ故に、イノベーションを継続的に起こすことが出来る企業というのは、それ自体が競争優位と成り得るのである。
インダストリとしてのポートフォリオを考える
更に話を広げると、イノベーションのポートフォリオというのは、企業レベルだけではなく、産業レベルや国家レベルでも考えていくテーマである。例えば筆者が専門とする金融ITの領域は、当局からの規制が非常に厳しく、その規制の枠組みを超えるようなイノベーションは起きにくい。しかし、米国ではそこを金融領域のベンチャー企業が補うような仕組みが出来上がりつつある。
5月8~9日に米国で「Finovate」という金融領域のイノベーションカンファレンスが開催されたのであるが、そこには64もの金融領域のスタートアップ企業が参加して、投資家、金融機関、ITベンダーなどに対してプレゼンテーションを行った。この中から、金融サービスに組み込まれるものが出てくると考えると、米国の金融領域においては、産業全体としてイノベーションのポートフォリオが最適化されているのではないかと考えられる。
つまり、個々の企業としてのイノベーションに偏りがあったとしても、産業全体としてバランスの取れたイノベーションのポートフォリオを持つことにより、産業そのものを活性化させ成長を持続することが出来るのである。これは国家レベルでも同様であり、それ故にベンチャービジネスの活性化みたいな議論が良く出るのである。
ただ、これも単にベンチャーが増えれば良いという話ではなく、国の成長としてどのようなイノベーションのポートフォリオを持ち、誰が何を担うのかが議論されて初めて戦略として成り立つのである。
ちなみに、金融領域のイノベーションをフォローするFacebookページをISIDとして立ち上げたので、興味ある方はフォローしてみて下さい。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。